M&A業者の営業で売主が注意すべき4つの手口。NDA・管轄裁判所・「買いたい会社がいる」の落とし穴

株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)

  • M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
  • ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
  • 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
  • M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。

M&A市場の拡大に伴い、M&A仲介会社やアドバイザーから営業を受ける経営者が増えています。インターネットでも、しつこい、うざいといった口コミも散見されます。

営業という行為そのものが悪いわけではありません。経営者であれば、自社の商品やサービスを知ってもらうために営業活動を行うこともあるでしょう。DMや電話による営業についても、すべてを否定するべきではないと考えています。

ただし、会社売却の営業には、売主が内容をよく理解しないまま契約すると、将来の選択肢を狭めたり、不利な立場に置かれたりするものがあります。

実際に私が最近確認した契約書や、過去に買主としてM&Aに関わった経験の中にも、「これは信義の面で問題があるのではないか」と感じる営業手法や契約内容がありました。

この記事では、会社売却を検討している経営者が、M&A業者を選ぶ際に注意したい4つのポイントを解説します。

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M&A業者の営業で売主が注意すべき4つの手口

NDA・管轄裁判所・「買いたい会社がいる」の落とし穴

私は、YouTubeやWebサイトを通じてお問い合わせをいただく、いわゆるインバウンド型の営業を中心に活動しています。そのため、こちらから経営者に電話やDMを送り、会社売却を勧めるような営業は原則として行っていません。

ただ、M&A業者が営業活動を行うこと自体を否定しているわけではありません。

どのような事業でも、新しいお客様と出会うために営業活動は必要です。M&A業者から電話やDMが届いたからといって、それだけで「怪しい業者だ」と判断する必要はないでしょう。

一方で、注意していただきたいのは、営業の入口で売主に不利な契約を結ばせたり、事実とは異なる印象を与えて契約につなげたりするケースがあることです。

会社売却は、一般的な商品やサービスを購入するのとは大きく異なります。売主の財産だけでなく、従業員や取引先、そして会社の将来にも大きな影響を与える重要な取引です。

そのため、営業担当者から魅力的な話をされたとしても、その言葉だけで判断してはいけません。

「どのような契約を結ぶことになるのか」
「そのM&A業者は誰の立場で動くのか」
「説明されている内容は本当に事実なのか」

こうした点を一つずつ確認したうえで、依頼するかどうかを判断することが大切です。

ここからは、私が実際に見聞きしてきた事例をもとに、M&A業者から営業を受けた際に、売主が特に注意しておきたい4つの手口について解説します。

注意点1.秘密保持契約書に「交渉先を制限する条項」が入っていないか

1.秘密保持契約書を
締結すること自体は一般的

M&A業者に会社売却の相談をすると、最初に秘密保持契約書の締結を求められることがあります。

M&Aの相談では、会社名だけでなく、財務情報や取引先、従業員、事業内容など、外部に知られたくない重要な情報を伝えることになるからです。

秘密保持契約書を締結すること自体は、決して不自然ではありません。相談内容を第三者に漏らさないことを約束するものであり、売主を守るためにも必要な契約です。

秘密保持契約書は、一般的に「NDA(Non-Disclosure Agreement)」とも呼ばれます。

2.NDAに
「買手候補との交渉を制限する
条項」が入っているケース

私が実際に確認した秘密保持契約書の中に、通常の秘密保持とは異なる内容の条項が入っていたことがあります。

簡単にいうと、

「そのM&A業者が紹介した企業とは、今後、直接交渉してはならない」

という趣旨の条項です。

この段階では、売主はまだそのM&A業者と仲介契約やFA契約を締結していません。会社売却を正式に依頼したわけでもなく、あくまで相談を始めるために秘密保持契約を締結しようとしている段階です。

それにもかかわらず、NDAの中に将来の買手候補との交渉を制限する内容が含まれていました。

秘密保持契約の本来の目的は、相談によって知り得た機密情報を第三者に漏らさないことです。

その契約の中に、売主の将来の交渉先まで制限する条項が入っているのであれば、少なくとも「なぜ秘密保持契約の段階で、この条項が必要なのか」を確認する必要があります。

これは秘密保持契約書の本来の目的から外れているのではないかと感じます。

3.買手候補リストを見せただけで将来の活動を制限される可能性

想定される流れは次のとおりです。

M&A業者と秘密保持契約を締結した後、その業者から買手候補リストを渡されます。売主がリストを確認すると、秘密保持契約書にある条項を根拠に、「このリストに記載された会社とは、今後ほかのM&A業者を通じても交渉してはいけない」と主張される可能性があります。

しかし、売主はそのM&A業者に正式な依頼をしていません。

単に秘密保持契約を締結し、営業担当者から渡されたリストを確認しただけです。それによって、将来別のアドバイザーやM&A仲介会社へ依頼した際の買手候補まで制限されるとすれば、売主にとって非常に大きな不利益になります。

M&A業者が一方的に作成したリストを見せるだけで、売主の今後の選択肢を縛ろうとすることには疑問があります。

4.NDAは「秘密保持」以外の
条項も必ず確認する

秘密保持契約書は、仲介契約やFA契約などと比べると、比較的気軽に署名・押印してしまいやすい契約書です。

しかし、「秘密保持契約だから問題ないだろう」と考えて、内容を確認せずに締結してはいけません。

契約書である以上、一度締結すれば、その内容に基づいて権利や義務が発生する可能性があります。

「NDAだから問題ないだろう」と考えず、少なくとも次のような条項が入っていないか確認してください。

  • 特定の企業との直接交渉を禁止する条項
  • 他社へのM&A依頼を制限する条項
  • 紹介を受けていない企業まで対象にする条項
  • 違約金や損害賠償を広く請求できる条項
  • 契約終了後も長期間にわたって交渉を制限する条項

不自然な条項が入っている場合は、その場で署名せず、なぜ秘密保持契約書にその内容が必要なのか説明を求めるべきです。

納得できる説明が得られなければ、弁護士などの専門家に確認するか、別のM&A業者へ相談することも検討してください。

担当者本人が悪意を持っているとは限りません。会社の方針として、すべての営業担当者に同じ契約書を使わせている可能性もあります。

それでも、契約書の内容から信義に疑問を感じる場合は、そのM&A業者へ正式に依頼するかどうかを慎重に判断する必要があります。

注意点2.管轄裁判所がM&A業者側に一方的に有利になっていないか

管轄裁判所とは何か

M&A業者と契約する際には、手数料や契約期間だけでなく、「管轄裁判所」についても確認しておくことが大切です。

契約書には、契約をめぐってトラブルが発生し、裁判になった場合に、どこの裁判所で手続きを行うのかを定めた条項が入っていることがあります。

これが「合意管轄裁判所」に関する条項です。

例えば、

「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」

と定められていれば、契約上のトラブルについて、原則として東京地方裁判所で裁判を行うことになります。

売主が大阪や福岡、北海道などに所在している場合、裁判になれば遠方で対応しなければならない可能性があります。

契約するときにはあまり気にならない条項かもしれませんが、実際にトラブルが起きると、時間や費用の面で大きな負担になる可能性があります。

1.大手企業との取引では、
相手の契約条件を受け入れざるを得ないこともある

私自身、過去に大手商社と取引した際、契約書の管轄裁判所が東京地方裁判所になっていたことがあります。

当時、私の会社は大阪にありました。

そこで、「管轄裁判所を大阪に変更できませんか」と相談しましたが、大手企業が全社で使用している契約書を、一取引先のために変更してもらうことは簡単ではありませんでした。

相手が圧倒的に大きな企業で、

「この契約条件を受け入れられないのであれば、取引はできません」

という力関係であれば、こちらが条件を受け入れざるを得ないこともあります。

しかし、会社売却を依頼する売主とM&A業者の関係は、必ずしも同じではありません。

売主はM&A業者に会社売却の支援を依頼し、成約すれば成功報酬を支払う顧客です。

そのため、M&A業者から提示された契約書に、その業者の所在地だけを基準とした管轄裁判所が指定されているのであれば、

「なぜこの裁判所が指定されているのか」

と確認してみることが大切です。

2.私は「被告所在地を管轄」とすることを基本にしている

私が契約書を作成する場合は、原則として**「被告の所在地を管轄する裁判所」**とする考え方を採っています。

簡単にいうと、訴えを起こされた側の所在地を基準にするという考え方です。

例えば、こちらが相手を訴えるのであれば、相手方の所在地を管轄する裁判所へ出向くことになります。反対に、相手がこちらを訴えるのであれば、こちらの所在地を管轄する裁判所で手続きを行うことになります。

このような条件にしておけば、訴える側にも一定の時間や費用の負担が生じます。

そのため私は、どちらか一方の所在地に固定するよりも、双方にとってバランスの取れた考え方の一つだと考えています。

大手のM&A会社と契約する場合でも、契約書に「東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」と書かれていれば、

「被告所在地を管轄する形に変更できませんか」

とお願いすることがあります。

実際に、こうした変更に応じてもらえるケースもあります。

大切なのは、M&A業者から提示された契約書を「変更できないもの」と最初から思い込まないことです。

3.遠方の裁判所が指定されて
いると、実際の負担は大きい

私自身、長い経営者人生の中で、ビジネス上の大きな訴訟を経験したことがあります。

その訴訟は高等裁判所まで進み、最終的にはこちらが全面的に勝つことができました。

しかし、契約書で地方都市の裁判所が指定されていたため、地方裁判所から高等裁判所まで、その地域で裁判を続けることになりました。

裁判が長期化すれば、弁護士も現地へ移動する必要があります。当然、交通費や時間、弁護士費用などの負担も大きくなります。

もし契約内容が異なっていれば、こちらの所在地を管轄する裁判所で手続きを行えた可能性もあります。

管轄裁判所の条項は、契約するときには小さな問題に見えるかもしれません。

しかし、実際にトラブルが発生したときには、時間と費用の両面で大きな影響を与える可能性がある条項です。

だからこそ、「どうせ裁判にはならないだろう」と考えて読み飛ばさないことが大切です。

4.「なぜこの裁判所なのか」
を、契約前に確認する

M&A業者から提示された契約書に、東京地方裁判所など、M&A業者側の所在地を基準とした裁判所が指定されている場合には、一度確認してみてください。

例えば、

「なぜ御社の所在地だけを管轄裁判所にしているのでしょうか。被告所在地を管轄とする形には変更できませんか」

と聞いてみればよいでしょう。

重要なのは、必ず「被告所在地」に変更しなければならないということではありません。

契約条件の意味を理解し、納得したうえで契約することです。

売主がM&A業者に対して、必要以上に下手に出る必要はありません。

合理的な理由を確認しても十分な説明がなく、M&A業者側に有利な条件だけを当然のように求めてくるのであれば、その契約条件だけでなく、契約に対するM&A業者の姿勢も含めて、会社売却を任せる相手として適切かどうかを判断することが大切です。

注意点3.「あなたの会社を買いたい企業がいる」という営業を鵜呑みにしない

1.「御社を買いたい会社がいる」は昔から使われている
営業手法

M&A業者から、次のような営業を受けることがあります。

「御社に興味を持っている会社があります」

「御社を買いたいという企業から相談を受けています」

「具体的な買手候補がいるので、一度お話をさせてください」

もちろん、本当に特定の会社を買収したいと考えている買主が、M&A業者へ依頼するケースはあります。

例えば、

「A社を買収したいので、経営者に売却の意向があるか確認してほしい」

という具体的な依頼です。

このような「指名型」の買収相談が実際に存在することは間違いありません。

しかし、営業電話やDMで突然、

「御社を買いたい会社がいます」

と言われた場合には、その言葉をそのまま受け取らず、**「本当に当社を名指ししているのか」**を確認することが大切です。

2.詳しい会社情報を知らずに「買いたい」と判断できるのか

特に非上場企業の場合、外部から入手できる情報には限りがあります。

会社名や所在地、業種、ホームページに掲載されている事業内容などは確認できます。

しかし、売上高や利益、借入金、取引先構成、従業員の状況、事業の強みやリスクなど、実際にM&Aを検討するうえで重要な情報までは分からないことが一般的です。

それにもかかわらず、

「御社を買いたい会社がいます」とかなり具体的に言われたのであれば、次の点を確認してください。

  • 買手候補は、本当に当社を名指ししているのか
  • 買手候補は、当社についてどこまで把握しているのか
  • なぜ当社に興味を持ったのか
  • 買手候補から具体的な依頼を受けているのか
  • 同じ業種・地域の複数企業にも同じ営業をしていないか

ここで重要なのは、

「御社のような会社を探している」

という話と、

「御社を名指しして買収したい会社がいる」

という話は、まったく意味が違うということです。

3.「御社のような会社を探している」は、
多くの企業に当てはまる

例えば、ある買主が、

「関西圏の建設会社を買収したい」

と考えていたとします。

この場合、その条件に該当する複数の建設会社に、

「御社のような会社を探している買主がいます」

と営業することができます。

この説明自体が間違っているとは限りません。

しかし、売主がそれを、

「自分の会社を特別に評価して、ぜひ買いたいと言っている会社がある」

と受け取ってしまうと、実態とは大きな差が生まれます。

これは、人材紹介会社から、

「あなたのような経歴を持つ人を探している会社があります」

と言われるケースと似ています。

「あなたを名指しで採用したい会社がある」のと、「あなたのような経歴の人材を探している」のでは、意味が違います。

M&Aでも同じです。

「御社を買いたい会社がいる」と言われたら、本当に自社が指名されているのか、それとも自社のような条件の会社を広く探しているだけなのかを確認することが重要です。

4.「興味がある」と
「買いたい」は大きく違う

私は2003年から2005年頃にかけて、買主として複数の会社を買収した経験があります。

当時は、私の会社がM&Aによる買収を行っていることがある程度知られていたため、M&A仲介会社にも、

「売却案件があれば、私の携帯電話へ直接連絡してください」

と伝えていました。

実際に、日本経済新聞の一面に掲載されるような規模の会社を買収したこともあります。

そのため、M&A仲介会社から、

「こういう会社がありますが、興味はありませんか」

と案件を紹介されることがよくありました。

資料を見て、

「この会社なら興味があります」

「もう少し詳しい情報を見てみたいです」

と答えることがあります。

ところが、その回答が売主には、

「この会社が御社を買いたいと言っています」

と伝わっていることがありました。

しかし、私としては、まだ「買いたい」と決めたわけではありません。

「興味がある」「詳しい情報を見てみたい」「条件が合えば検討したい」という段階です。

「興味がある」と「買いたい」では、買収に対する温度感が大きく異なります。

5.売主と買主の双方に
「相手が希望している」と
伝えることもある

さらに、買主である私には、

「売主が御社への売却を希望しています」

と伝え、売主には、

「買主が御社の買収を希望しています」

と伝えるケースもありました。

つまり、双方に対して「相手があなたとのM&Aを希望している」という印象を与え、面談や交渉の場を作るわけです。

もちろん、それがきっかけとなって双方が実際に興味を持ち、最終的に良いM&Aにつながることもあります。

M&A業者には、売主と買主の間に入り、面談や交渉のきっかけを作る役割もあります。

しかし、「興味がある」という話を「買いたい」に変えるなど、実際の意向以上に強く伝えているのであれば話は別です。

私自身、実際に売主と面談した際、

「御社が当社を買いたいと聞いています」

と言われ、

「いや、私はそこまでは言っていません」

と答えたことがあります。

そこで初めて、売主と買主に伝えられていた内容が違っていたことが分かったわけです。

このような営業手法は昔から見られるものです。

だからこそ、「買いたい会社がいる」という言葉だけで判断するのではなく、買手候補が実際にどの程度の関心を持っているのかを確認することが重要です。

6.「買いたい会社がいる」ことと「高く売れる」ことは別問題

そして、もう一つ重要なポイントがあります。

仮に本当に「御社を買いたい」という具体的な買手候補がいたとしても、その会社が売主にとって最良の買主とは限りません。

例えば、その会社だけと交渉を進めてしまえば、ほかにもっと高く評価してくれる買手がいるかどうか分かりません。

1社だけとの交渉では競争環境も生まれにくく、譲渡価格やその他の条件について、買主側のペースで交渉が進む可能性もあります。

売主にとって重要なのは、

「買いたい会社がいるなら、すぐにその会社と交渉しよう」

と考えることではありません。

まず確認すべきなのは、

「本当に自社を指名しているのか」
「買手候補はどの程度、本気で検討しているのか」
「ほかにもっと良い条件を提示する買手候補はいないのか」

ということです。

「御社を買いたい会社がいる」という話は、会社売却を考えるきっかけの一つにはなるでしょう。

しかし、その1社の存在だけを理由にM&A業者へ依頼したり、すぐに独占的な交渉へ進んだりする必要はありません。

会社を売却するのであれば、できるだけ多くの可能性を確認し、その中から価格だけでなく、条件や相性、会社の将来なども含めて、売主にとって最も良い買手を選ぶことが大切です。

注意点4.M&A仲介会社は買主にもサービスを提供する

1.M&A仲介会社は「売主だけのアドバイザー」ではない

M&A仲介会社の担当者は、売主に対してアドバイザーのような立場で接することがあります。

会社売却について相談し、さまざまなアドバイスを受けていると、売主としては、

「この担当者は自分の味方として動いてくれる」

「できるだけ高く売るために交渉してくれる」

と感じることもあるでしょう。

しかし、ここで理解しておきたいことがあります。

M&A仲介会社は、売主だけを支援するアドバイザーではありません。

一般的なM&A仲介では、同じ仲介会社が売主と買主の間に入り、双方にサービスを提供します。

売主に対して情報提供や助言、交渉の調整などを行う一方で、買主に対しても情報提供や助言、調整を行います。

これは、売主だけを依頼者として支援するFA(フィナンシャル・アドバイザー)や売主専任アドバイザーとの大きな違いです。

2.仲介契約書には
「買主にもサービスを提供する」ことが
記載されていることがある

M&A仲介会社との契約書には、売主にサービスを提供する一方で、買主に対してもサービスを提供することについて、売主の承諾を求める内容が記載されていることがあります。

これは、M&A仲介の仕組みを理解するうえで非常に重要な部分です。

なぜなら、売主と買主では、M&Aにおける希望が必ずしも一致しないからです。

例えば譲渡価格で考えてみましょう。

売主は、当然ながら、

「できるだけ高い価格、良い条件で会社を売却したい」

と考えます。

一方、買主は、

「できるだけ適正な価格で、買収後のリスクを抑えて会社を取得したい」

と考えます。

価格だけでなく、表明保証、経営者の残留期間、役員報酬、従業員の処遇、契約上の責任などについても、売主と買主の希望が異なることがあります。その双方に、同じM&A仲介会社がサービスを提供するのが仲介モデルです。

だからこそ、仲介契約を締結する際には、**「このM&A会社は売主だけの立場で仕事をするわけではない」**という点を理解しておく必要があります。

3.「売主にも買主にも寄り添う」とはどういうことか

M&A仲介会社の担当者から、

「社長に寄り添って進めます」

「売主の立場も考えてサポートします」

と言われることもあるでしょう。

もちろん、売主の希望を聞き、円滑にM&Aを進めるためにサポートすること自体に問題があるわけではありません。

ただし、仲介会社は買主にもサービスを提供します。

そこで売主として考えておきたいのが、

「売主と買主の希望が対立したとき、仲介会社はどのような立場で調整するのか」

ということです。

例えば、売主が10億円で売却したいのに対して、買主は8億円で買収したいとします。

売主の利益だけを考えれば、10億円、あるいはそれ以上で売却できるように交渉してほしいところです。

しかし、それは買主にとっては購入価格が上がることを意味します。

反対に、買主の希望を優先して8億円に近づければ、売主にとっては譲渡価格が下がることになります。

つまり、売主と買主の双方にサービスを提供する以上、仲介会社が売主だけの利益を最大化する立場で交渉することには構造上の難しさがあります。

これが、M&A仲介において売主が理解しておきたい利益相反の問題です。

4.契約書に署名する前に
「仲介の仕組み」を理解する

M&A仲介では、売主と買主の双方にサービスを提供することを前提として契約が組み立てられている場合があります。

そのため、仲介契約書には、同じ仲介会社が買主にもサービスを提供することについて、売主の承諾を求める条項が入っていることがあります。

売主が契約書に署名すれば、その内容について承諾したことになります。

重要なのは、契約書に書かれているかどうかだけではなく、その意味を売主が十分に理解しているかどうかです。

「一般的な契約書です」

「ほかの売主も皆さん締結しています」

と説明されただけで署名するのではなく、少なくとも次のような点を確認しておくとよいでしょう。

  • 仲介会社は買主からも手数料を受け取るのか
  • 買主に対して、どのようなサービスや助言を行うのか
  • 売主と買主の希望が対立した場合、どのように調整するのか
  • 価格交渉ではどのような立場を取るのか
  • 売主から受け取った情報を、どの範囲まで買主へ伝えるのか
  • 利益相反が生じる可能性について、どのような対応をするのか
  • 売主だけの代理人・アドバイザーとして交渉する契約ではないことを理解しているか

こうした点について十分な説明を受け、納得したうえで契約することが重要です。

分からないことが残っているのであれば、急いで契約する必要はありません。

5.会社売却2.0は
「売主だけ」を支援する

一方、会社売却2.0では、売主だけを依頼者として支援するアドバイザーモデルを採用しています。

買主に対して、売主と同じような立場で助言やアドバイスを行うことはありません。

もちろん、M&Aを進めるためには、買主との連絡や面談の日程調整、資料の受け渡しなど、実務上必要な調整は行います。

しかし、それは取引を円滑に進めるための調整であり、買主の利益を高めるためのアドバイスを行うものではありません。

この点については、契約書にも明記しています。

私がこのような形を採っているのは、売主と買主の双方から依頼を受けて双方へ助言する立場では、売主だけの利益を考えて価格や条件を交渉することが難しいと考えているからです。

そのため、会社売却2.0では、買主側から手数料を受け取らず、売主側だけを支援する立場を明確にしています。

6.仲介会社が悪いのではなく
「誰の立場なのか」を
理解することが重要

契約書やルールは、ビジネスを進めるうえで必要です。もちろん、M&A仲介という仕組みそのものを否定しているわけではありません。

実際、日本のM&Aでは仲介モデルが広く利用されており、仲介会社が間に入ることで売主と買主が出会い、M&Aが成立するケースも数多くあります。

重要なのは、

「仲介会社だから悪い」
「FAだから良い」

と単純に判断することではありません。

売主が確認すべきなのは、

「このM&A業者は誰から依頼を受け、誰から報酬を受け取り、誰の立場で交渉するのか」

ということです。

特にM&A仲介会社へ依頼する場合には、**「担当者は自分だけの代理人ではない」**という点を理解したうえで契約する必要があります。

会社売却は、譲渡価格だけでなく、売却後の経営体制や従業員の処遇、売主が負う責任など、多くの条件を交渉する取引です。

だからこそ、契約書に署名する前に、M&A業者がどのような立場で自分を支援するのかを確認しておくことが大切です。

まとめ

会社売却2.0

私たちも成功報酬で会社売却を支援しているため、売主から軽い気持ちで依頼され、何か月も活動した後に突然「やはり売却をやめます」と言われれば、大きな負担が生じます。

買手候補を探し、資料を作成し、面談や交渉を重ねても、M&Aが成約しなければ成功報酬は受け取れません。

そのため、M&A業者だけでなく、売主にも会社を売却するかどうかを真剣に考えたうえで依頼していただく必要があります。

●契約書で縛ることだけが
正しいとは限らない

一方で、契約を結んだからといって、何が何でもその契約で相手を縛ればよいとも考えていません。

M&Aは、売主とアドバイザーが長期間にわたって一緒に進めていく仕事です。

途中で人間関係が崩れ、

「この相手とは、もう信頼して一緒に進めることができない」

という状態になれば、契約書だけを根拠に無理に関係を続けても、良いM&Aにつながるとは思えません。

売主が十分に考えたうえで、本当に会社売却をやめたいと判断したのであれば、事情によっては契約期間中であっても、お互いに納得した形で契約を終了した方がよい場合もあるでしょう。

ビジネスには契約やルールが必要です。しかし、その前提にあるのは相手との信義だと私は考えています。

●契約の「入口」を見れば
M&A業者の姿勢が見える

だからこそ、M&A業者を選ぶときには、会社の規模や知名度、営業担当者の話だけで判断しないことが大切です。

今回ご紹介したように、契約や営業の入口には、そのM&A業者の考え方や姿勢が表れることがあります。

例えば、

  • 秘密保持契約書に、将来の交渉先を制限するような条項が入っている
  • M&A業者側だけに有利な管轄裁判所が指定され、その理由について十分な説明がない
  • 実際の買手の意向以上に「御社を買いたい会社がいる」と強く伝える
  • M&A仲介で売主と買主の双方にサービスを提供することや、利益相反の可能性について十分な説明がない

こうした点に疑問を感じたのであれば、すぐに契約する必要はありません。

「なぜ、このような契約条件になっているのか」
「本当に説明どおりなのか」
「この会社・担当者を信頼して会社売却を任せられるのか」

一度立ち止まって確認してみてください。

その質問に対して、きちんと理由を説明してくれるかどうかも、M&A業者を選ぶ重要な判断材料になります。

●大切なのは
「誰に会社売却を任せるか」

もちろん、M&A業者やM&A仲介会社がすべて問題だということではありません。

売主に対して契約内容や仲介の仕組みを丁寧に説明し、誠実にM&Aを支援している仲介会社やアドバイザーも数多く存在します。

だからこそ、会社の規模や知名度だけで依頼先を決めるのではなく、

「誰の立場で仕事をするのか」
「どこから報酬を受け取るのか」
「契約書には何が書かれているのか」

「売主と買主の利害が対立したとき、どのように対応するのか」

といった点まで確認することが重要です。

会社売却は、売主にとって何度も経験するものではありません。

譲渡価格はもちろん、従業員や取引先、そして売却後の人生にも大きな影響を与える重要な取引です。

だからこそ、「どのM&A業者に依頼するか」以上に、「本当に信頼して会社売却を任せられる相手か」という視点で判断することが大切です。

M&A業者からの営業や
契約書に不安があれば
ご相談ください

会社売却を検討しているものの、

「M&A業者から『御社を買いたい会社がいる』と言われたが、本当なのか分からない」

「提示された契約書に、そのまま署名してよいのか不安がある」

「仲介契約の内容や利益相反について、よく分からない」

という方もいらっしゃると思います。

そのような場合は、契約を急ぐ前に内容を確認することをおすすめします。

M&A業者から提示された契約書に不安がある方や、現在受けている営業の内容が適切なのか判断できない方は、「会社売却2.0」の無料相談をご利用ください。

契約することを前提にするのではなく、まず現在の状況を整理し、売主の立場から確認すべきポイントをお伝えします。

会社売却で重要なのは、契約書を作って売買を成立させることだけではありません。

会社の価値を正しく把握し、複数の買手候補を比較し、より良い条件を引き出し、デューデリジェンスによる減額を防ぎながらクロージングまで進めること。

そこまで対応できる知識と経験があるかどうかを確認したうえで、M&Aアドバイザーを選ぶことが大切です。

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