株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)
- M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
- ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
- 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
- M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。
会社売却を考えるとき、「自社は売りやすい会社なのか」「どのような会社にしておけば買い手から評価されやすいのか」は、多くの経営者が気になるテーマです。
今回は、2つの会社を比較しながら、どちらの会社の方が売りやすいのかを解説します。
ただし、会社にはそれぞれ特徴があります。単純に「Aだから良い」「Bだから悪い」と決めつけられるものではありません。買い手の目的や会社の状況によって、評価されるポイントは変わります。
そのうえで、一般論としてどのような会社が売りやすいのか、また、会社売却に向けてどのような点を整えておくべきなのかを確認していきましょう。
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目次
売りやすい会社は
どっち?
第1問.
‘不動産・設備が多い会社vs
‘キャッシュリッチな会社
まず1問目です。
A社は、自社ビルや工場などの不動産・設備を5億円保有している会社です。一方、B社は、銀行預金を5億円保有しているキャッシュリッチな会社です。
その他の条件がまったく同じだとした場合、どちらの会社の方が売りやすいでしょうか。
結論からお伝えすると、売りやすいのはB社です。

この話は、事業用資産と非事業用資産の違いを理解するとわかりやすくなります。
その理由は、「事業用資産」と「非事業用資産」の違いにあります。
工場や事務所、機械設備など、事業で使用している資産は「事業用資産」と呼ばれます。
これらの資産は、すでに会社の利益を生み出すために活用されています。そのため、企業価値を算定する際には、その価値が利益の中に織り込まれていると考えます。
例えば、自社工場によって利益を生み出しているのであれば、その工場の価値は利益評価の中に反映されています。
そのため、「利益をもとに企業価値を計算する」+「工場や土地の価値をさらに加算する」という二重評価は通常行いません。
一方で、現金や預金は事業活動に直接使われていない「非事業用資産」として扱われることが多く、企業価値にそのまま加算されやすい特徴があります。
そのため、同じ5億円でも、不動産や設備として保有しているより、現金として保有している方が買い手から高く評価されやすいのです。
事業用資産はコンパクトな方が評価されやすい
この事例から学べるポイントは、事業用資産は必要以上に大きくない方が売却時には有利になりやすいということです。
もちろん、事業に必要な工場や設備まで減らすべきという意味ではありません。
しかし、売却という観点で見ると、利益を生み出すために過大な設備投資や不動産を抱えている会社よりも、効率よく利益を出し、現金を蓄積している会社の方が評価されやすい傾向があります。
つまり今回のケースでは、A社よりもB社のキャッシュリッチな会社の方が、売りやすい会社だといえるでしょう。


第2問.
‘カリスマ社長の会社
vs
‘社長が暇そうな会社

A社は、社長が非常に優秀で、営業も開発もすべて1人で回している、いわゆるカリスマ社長の会社です。
一方、B社は、社長が昼過ぎに出社して、ハンコを押す程度で、社長が暇そうにしている会社です。
どちらの会社の方が売りやすいのでしょうか。
この場合、社長が引き続き経営に残ってくれるのであれば、優秀な社長がいるA社の方が良いと考えることもできます。
しかし、会社売却によって社長が退任する前提で考えると、答えはB社です。
社長に依存していない会社は引き継ぎやすい
社長がものすごく頑張って、今の売上や利益を作っている会社の場合、その状態を維持するためには、次の経営者にも同じレベルの能力が求められます。営業も開発も社長1人で回している会社であれば、その社長が抜けた瞬間に、今の収益を維持できなくなる可能性があります。
一方で、社長がほとんど何もしていないにもかかわらず、同じ売上・同じ利益が出ている会社であれば、その会社は事業として自立しているといえます。
社長に依存せず、組織や仕組みで売上と利益が上がっている会社の方が、買い手にとっては引き継ぎやすいのです。
俗人性が高い会社は売りにくい
この話は、俗人性の問題です。
社長に紐づいている部分が多ければ多いほど、その人に依存する会社になります。
その社長が譲渡後に退職する場合、買い手としては「今の収益を本当に維持できるのか」と考えます。
そのため、売却に向けては、社長個人に依存している営業、開発、顧客対応、意思決定などを、できるだけ組織や仕組みに移しておくことが重要です。
この場合は、B社の社長が暇そうにしている会社の方が売りやすいといえます。

第3問.
‘売上の8割を1社が占める会社VS
‘小口顧客が500社いる会社

A社は、売上の8割を1社が占める安定取引の会社です。
一方、B社は、売上は同じですが、小口の顧客が500社いる会社です。
どちらの会社の方が売りやすいのでしょうか。
一般論でいうと、小口の顧客に分散しているB社の方が売りやすいです。
顧客が分散している会社は安定して見える
売上の多くを1社に依存している会社は、その取引先との関係が切れたときのリスクが大きくなります。
仮に売上の8割を占める取引先との契約が終了すれば、会社の売上や利益は大きく落ち込む可能性があります。
そのため、資本家や一般的な買い手が会社を買う場合には、売上が1社に集中している会社は怖いと見られやすいです。
一方で、小口の顧客が500社に分散している会社であれば、特定の顧客が離れても、会社全体への影響は限定的です。
そのため、分散している会社の方が
安心だと見られます。
ただし大手との取引口座が
価値になるケースもある
ただし、これは必ずしもB社だけが良いという話ではありません。
たとえば、買い手企業が売り手企業の10倍くらいの規模を持っている会社だとします。
その買い手企業が、A社の売上の8割を占める大手取引先との取引口座を欲しがっている場合、話は変わります。
その会社を買収することで、買い手はその大手取引先に対して、自社の別の商品やサービスを提供できるようになるかもしれません。
このように、特定の大手企業との取引口座を持っていること自体に価値を見出す買い手もいます。
その買い手にとっては、A社のような会社が、喉から手が出るほど欲しい会社になるケースもあります。
一般論ではB社だが、
買い手によってA社も評価される
したがって、この比較は少し分かれます。
一般論としては、小口の顧客が500社いるB社の方が売りやすいです。
しかし、大手企業との強い取引関係や取引口座を欲しがっている買い手にとっては、A社のように売上の大部分を1社が占めている会社が、非常に魅力的に見えることもあります。
重要なのは、自社の顧客構成を買い手がどう評価するかを考えることです。

第4問.
‘単発高額契約の会社
vs
‘ストック型継続課金の会社
4問目です。
A社は、1件1,000万円の契約を毎月必死に獲得している、フロー型・売り切り型の会社です。
一方、B社は、月額1万円の契約を1,000件積み上げている、ストック型・継続課金の会社です。
どちらの会社の方が売りやすいのでしょうか。
一般論としては、
B社のストック型・継続課金の会社の方が評価されやすいです。

継続課金は
将来の売上を読みやすい
継続課金のビジネスを見るときには、チャーンレート、つまりどれくらい解約されるのかを確認します。
継続課金といっても、本当に良い継続課金もあれば、あまりよろしくない継続課金もあります。
たとえば、毎月多くの顧客が解約しているのであれば、継続課金とはいえ安定しているとはいえません。
しかし、継続的に契約が続いていくことを前提にできるのであれば、サブスク型のビジネスモデルは企業価値がつきやすくなります。
月額課金が積み上がっている会社は、将来の売上を予測しやすいため、買い手から評価されやすいのです。
単発契約の会社が悪いわけではない
ただし、単価の高い商品やサービスを売り続けている会社が、必ず悪いわけではありません。
ここは顧客集中の話にも似ています。
高額の商品を毎月売り続けられている会社には、売れる仕組みがある場合があります。
たとえば、1,000万円の商品を毎月20件売っている会社があるとすれば、それは単発契約であっても、販売の仕組みができている会社です。
1,000万円の商品を1件ずつ売っているからといって、翌月の売上がゼロになるとは限りません。
世の中には、単発の商品やサービスを継続的に売り続けている会社もあります。
そのような会社には、仕組みとしての継続性があります。
開示後のブレイクは責任追及が難しい
それでも、1件1,000万円の契約を毎月獲得する会社と、月額1万円の契約を1,000件積み上げている会社を比較するなら、B社の方が売りやすいと考えます。
小さな契約が積み上がっている会社は、売上の安定性が見えやすく、買い手も評価しやすいからです。
私自身も、どちらが好きかといえば、やはりB社のようなストック型の会社の方が好きです。
ただし、A社のようなフロー型の会社であっても、売れる仕組みが整っていれば、十分に評価される可能性があります。

第5問.
‘ベテラン職人の会社
vs
‘マニュアル化された
若手中心の会社

A社は、金属加工のベテラン職人が支える、熟練技術の会社です。
一方、
B社は、マニュアル化が進んでおり、入社3年の若手が中心で、平均年齢20代の会社です。
どちらの会社の方が売りやすいのでしょうか。
一般論としては、B社の方が買い手にとって安心感があります。
マニュアル化された会社は引き継ぎやすい
B社のように、マニュアル化が進み、若手でも仕事を回せている会社は、買い手にとって引き継ぎやすい会社です。
特定の人に頼らず、誰でも一定水準の仕事ができる状態になっているため、事業の再現性が高いと見られます。
これは、先ほどのカリスマ社長に依存している会社と同じで、特定の職人に依存している会社は俗人性が高いと見られやすいのです。
ベテラン職人の会社にも大きな価値がある
ただし、A社のような会社も非常に面白い存在です。
ベテラン職人の熟練技術は、簡単には手に入りません。
買い手企業がその職人をマネジメントできる自信を持っている場合や、自社の経営資源と組み合わせてさらに伸ばせる場合には、A社は非常に魅力的な会社になります。
また、その職人が会社を離れないように包み込むような企業文化が買い手側にあるなら、A社の技術を活かすこともできます。
技術をどう活かせるかで評価は変わる
一般論としては、特定の職人に依存している会社はリスクがあると見られます。
しかし、同じ技術分野の大きな会社が買う場合には、代替性や補完性があり、さらに事業を伸ばしていける可能性があります。
その場合、A社の技術には大きな価値がつくかもしれません。
軽く一般論で答えるなら、誰でもできる仕事にしているB社の方が買いやすい会社です。
ただし、A社のような熟練技術を持つ会社にも、買い手によっては非常に大きな魅力があります。

第6問.
‘労務・契約が雑な会社
vs
‘コンプライアンス重視の会社

A社は、残業代はどんぶり勘定で、契約書も口約束が多い、昭和の猛烈タイプの会社です。
一方、
B社は、残業代を1分単位で計算し、契約書も完備されている、コンプライアンス重視の会社です。
どちらの会社の方が売りやすいのでしょうか。
この比較については、
前提条件を細かく考えるまでもなく、B社です。
A社は非常に厳しいです。
労務管理が雑な会社は
大きなリスクになる
残業代がどんぶり勘定で、契約書も口約束という会社は、買い手から見ると、どこまでリスクがあるのかわかりません。
労務関係の問題は、現在非常に厳しく見られます。
未払い残業代がある場合、後から大きな金額になる可能性があります。
しかも、単に未払い残業代を払えば済むという問題ではありません。
法律違反に関わる問題であり、非常に重たいリスクとして見られます。
表明保証や補償でも厳しく見られる
会社売却の契約では、表明保証という条項があります。
労務管理が雑な会社の場合、買い手から厳しい表明保証や、相当な金額の補償を求められる可能性があります。
買い手としても、後から労務問題が発覚するリスクをそのまま引き受けるわけにはいきません。
そのため、売り手に対して「問題がないことを保証してください」「もし問題が出たら補償してください」と求めることになります。
このような会社は、企業価値が下がりやすいと考えてください。
労務・契約・コンプライアンスは
必ず整えるべき
労務管理や契約書の整備は、会社売却を考えるなら必ず直しておくべき部分です。
残業代の計算が雑で、契約書もない状態だと、売却時に大きなリスクになります。
特に労務関係は、金額面でも法的な面でも重たくなりやすい領域です。
この6問目については、議論の余地なく、B社のコンプライアンス重視の会社の方が売りやすいといえます。

■アドバイザーとして
伝えたいこと
ここまで、売りやすい会社の特徴を6つの比較でご紹介してきました。
ただし、最後の「コンプライアンス」の問題を除けば、A社にもB社にも、それぞれ強みがあります。
今回は比較しやすいように「どちらが売りやすいか」という視点でお話ししましたが、実際には「どちらが良い・悪い」という単純な話ではありません。
※大切なのは、自社の特徴を正しく理解し、その強みを買い手にわかりやすく伝えることです。
例えば、高額な商品やサービスを販売している会社にも、大きな強みがあります。
M&Aアドバイザリーのように、1件あたりの契約金額が大きいビジネスは珍しくありません。
一方で、小さな契約を数多く積み上げるストック型の会社も、高い企業価値が評価されます。
また、売上の多くを1社の取引先が占める会社は、一見リスクが高く見えますが、その取引先と長年取引を続けられるだけの営業力や商品力、信頼関係があるとも考えられます。それは大きな企業価値です。
逆に、多くの顧客へ幅広く販売している会社は、取引先が分散しているため、安定性が高いという強みがあります。
ベテラン職人が活躍する会社も同じです。
高度な技術を持つことは大きな競争力ですが、他社にはない技術を持っているということです。
反対に、マニュアル化され、誰でも同じ品質で仕事ができる会社は、引継ぎや再現性に優れています。
しかし、「他社にはない強みは何か」という点では、別の評価になることもあります。
つまり、どちらが正解ということではありません。
重要なのは、自社の特徴を整理し、強みはしっかり伝え、弱みは改善しながらリスクを減らしていくことです。
■会社には、それぞれに合った売り方がある
会社には、それぞれ違った魅力があります。
そして、その魅力を評価するポイントも買い手によって異なります。
顧客が分散していることを評価する買い手もいれば、大手企業との強い取引関係を高く評価する買い手もいます。
マニュアル化された組織を評価する買い手もいれば、他社には真似できない職人技術を評価する買い手もいます。
だからこそ、自社の特徴を正しく理解し、「どの買い手に、どの強みを伝えるのか」を考えることが重要です。
会社売却を考えている経営者の皆様には、今回の6つの比較を参考に、自社の強みをさらに伸ばす経営を意識していただきたいと思います。
■労務管理の問題は議論の余地なく整えるべき
ただし、コンプライアンスだけは例外です。
一方で、6問目でお話しした労務管理やコンプライアンスについては、議論の余地はありません。
残業代の計算が曖昧。
契約書が整備されていない。
経営管理が属人的になっている。
このような状態は、企業価値を下げる要因になります。
売却を考えているかどうかに関係なく、必ず改善しておくべきポイントです。
例えば、
・契約書を整備する
・労務管理を適正に行う
・決算書を正しく作成する
・経営管理資料を整備する
こうした基本的な管理体制を整えることが重要です。
もちろん、中小企業に上場企業と同じレベルの管理体制を求めているわけではありません。
しかし、中小企業であっても、一定水準以上の経営管理は備えておくべきでしょう。
■経営管理レベルを上げることが、企業価値を高めること
経営管理レベルを高めることは、企業価値を高めることにつながります。
ここでいう企業価値とは、「高く売れる」という意味だけではありません。
会社そのものの経営品質を高めることでもあります。
優れた事業内容であっても、管理体制が整っていなければ、M&Aでは不安要素として見られることがあります。
一方で、経営管理がしっかりしている会社は、売却する場合はもちろん、売却しない場合でも経営が安定し、金融機関や取引先からの信頼も高まります。
契約書、労務管理、決算書、経営管理資料などを整備することは、会社売却のためだけではなく、日々の経営をより強くするための取り組みでもあります。
※ぜひ、経営管理レベルを高め、より価値の高い会社づくりを目指していただければと思います。

まとめ
売りやすい会社にするには、
自社の特徴を整理し、
リスクを減らすことが大切
今回は、「どちらの会社の方が売りやすいのか」を6つの比較を通して解説しました。
一般的に、買い手から評価されやすい会社には、次のような特徴があります。
- 事業用資産が過大ではなく、現金などの非事業用資産を保有している会社
- 社長への依存度が低く、事業が自立している会社
- 顧客が分散し、売上が安定している会社
- ストック型・継続課金型で、将来の売上が予測しやすい会社
- マニュアル化が進み、特定の人に依存していない会社
- 労務管理や契約書などが整備され、コンプライアンス上のリスクが少ない会社
ただし、これはあくまで一般的な傾向です。
会社には、それぞれ異なる強みがあります。
例えば、売上が1社に集中している会社でも、その取引先との強い信頼関係が大きな企業価値になることがあります。
また、ベテラン職人が支える会社も、他社には真似できない技術力を持つ企業として高く評価されるケースがあります。
大切なのは、「どのような会社が良いか」ではなく、自社の特徴を正しく整理し、その強みを買い手にわかりやすく伝えられる状態にしておくことです。
そして、労務管理、契約書、決算書、経営管理体制など、リスクにつながる部分は早めに整えておくことが重要です。
企業価値を高めることは、単に会社を高く売るためではありません。
日頃から経営管理のレベルを高め、強みを磨き、リスクを減らしていくことが、結果として「売りやすい会社」「選ばれる会社」につながります。
会社売却を検討されている経営者の方は、今回の6つの比較を参考に、自社はどのタイプに近いのか、そして今後どこを改善すればさらに企業価値を高められるのか、一度整理してみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
会社売却2.0


