株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)
- M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
- ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
- 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
- M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。
M&Aの初期段階では、買い手から売り手に対して、さまざまな質問が投げかけられます。
一見すると単なる確認事項のように見える質問でも、その裏側には必ず意図があります。買い手は、なぜその質問をしているのか。何を心配しているのか。どこを見て、会社を買うべきかどうかを判断しているのか。
今回は、買い手からよく聞かれる質問を5つに整理して解説します。
私はいつも、売り手の立場でM&Aを考えています。ただし、売り手の立場で考えるということは、買い手の立場に立つということでもあります。
買い手がどう思うかを考えながら、売り手としてどう答えるべきかを整理していく必要があります。
皆様が会社を買う側だったとしたら、どんなことが気になるでしょうか。そこを想像していただくと、買い手からの質問の意味が見えてきます。
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目次
危惧していること
トップ面談で
見られる買い手側の
不安と質問
●よくある質問1:「なぜ今、会社を売るのですか?」

買い手が最も心配するのは「聞いていた話と違う」ことです。
買い手が会社を買収した後に最も避けたいのは、「聞いていた内容と実態が違った」という事態です。
例えば、買収後すぐに業績が急激に悪化したり、売却前から抱えていた問題が後になって発覚したりすると、買い手は大きな損失を受ける可能性があります。
もちろん、コロナ禍のような予測できない外部環境の変化は仕方ありません。しかし、もともと存在していたリスクが十分に説明されていなかった場合、買い手としてはたまったものではありません。
そのため、買い手は「何か隠れた問題はないか」という視点で売り手を見ています。
「なぜ売るのですか?」は、不安を確認するための質問
買い手は、いきなり
「何か隠していることはありませんか?」
とは聞きません。
そこで必ずと言っていいほど出てくる質問が、
「なぜ今、会社を売るのですか?」
という質問です。
例えば、
- 業績は順調
- 社長もまだ若く元気
- 売却後も会社に残る意思がある
このような状況であれば、買い手は自然と、
「それなら、なぜ今なのでしょうか。」
「5年後でもよいのではありませんか。」
と考えます。
つまり、この質問は売却理由を知りたいだけではありません。
「売却を急ぐ理由は何か」「何か見えていない問題はないか」を確認するための質問なのです。
「問題ありません」だけでは十分な回答にならない
この質問に対して、
「特に問題はありません。」
とだけ答えてしまうのは、あまり良い回答とはいえません。
もちろん、本当に問題がないのであれば、その回答自体は間違いではありません。
しかし、買い手が知りたいのは、
- なぜ今売却するのか
- なぜこのタイミングなのか
- 売却後はどのように会社へ関わる予定なのか
という背景です。
売却理由や今後の考えまで説明できて初めて、買い手は安心できます。
買い手の不安を解消できる回答を準備しておく
例えば、次のように説明すると、買い手にも納得してもらいやすくなります。
「ご覧いただいている通り、会社の業績は順調で、経営にも特に問題はありません。ただ、私には後継者がいません。いずれ会社を引き継ぐ必要があるのであれば、会社の状態が良い今のうちに、時間をかけて最適な買い手を探したいと考えています。」
さらに、
「売却後すぐに経営から離れるつもりはありません。私もまだ元気ですので、3年から5年程度であれば引き継ぎに携わることも可能です。時間をかけてしっかり事業を引き継ぎたいと考えています。」
と伝えられれば、買い手の不安は大きく和らぎます。
売却理由は「買い手を安心させる説明」が重要
買い手が最も心配しているのは、表に出ていない問題があることです。
だからこそ、「なぜ今売却するのか」という質問には、単に理由を答えるだけではなく、買い手が安心できるストーリーとして説明することが大切です。
売却理由を事前に整理しておくことが、トップ面談を成功させる大きなポイントになります。


●よくある質問2:「価格目線はどれくらいですか?」

2つ目によく聞かれるのが、価格目線に関する質問です。
買い手は「自社で買える価格なのか」を知りたい
トップ面談でよく聞かれる質問の一つが、希望価格に関するものです。
買い手は、その会社に魅力を感じているからこそ面談に来ています。そこで次に気になるのが、
「どのくらいの価格であれば譲ってもらえるのか」
という点です。
売り手はできるだけ高く売りたい。一方で、買い手はできるだけ安く買いたい。これはM&Aでは当然のことです。
買収価格が低ければ、買収後に多少予想外のことが起きても投資として成功しやすくなります。反対に、買収価格が高くなるほど、買い手が負うリスクは大きくなります。
そのため買い手は、「自社の予算で買える価格なのか」「投資として見合う価格なのか」を確認するために、希望価格について質問しています。
買い手は価格交渉の余地も見ている
買い手は、価格だけでなく、売り手がどのような価格目線を持っているのかを探りにきます。
例えば、
- 希望価格はどの程度固まっているのか
- 価格交渉の余地はあるのか
- 他にも買い手候補がいるのか
- 競争環境になっているのか
といった点を見ています。
もし複数の買い手が競争している状況であれば、安い価格では買収できません。
本当に買いたい会社であれば、買い手も競争を意識した価格を提示する必要があります。
支払方法や買収スキームも確認される
買い手が確認するのは、価格だけではありません。
場合によっては、支払方法や買収スキームについて相談されることもあります。
例えば、
- 買収代金を一括ではなく分割で支払えないか
- 業績に応じて追加で支払うアーンアウトにできないか
- ファンドであれば、一部を再投資してもらえないか
- 上場会社であれば、一部を株式で支払えないか
といった提案が出ることもあります。
買い手は、自社の予算や投資条件に合う取引なのかを確認しているのです。
買い手が本当に知りたいことを理解する
希望価格について質問されると、「値下げ交渉を始めようとしている」と感じる売り手も少なくありません。
しかし、買い手の目的はそれだけではありません。
「この会社は自社にとって投資対象になるのか」
「どのような条件なら成約できるのか」
を判断するために、価格や支払条件について確認しているのです。
そのため売り手としては、単なる価格交渉と受け止めるのではなく、買い手が何を確認したいのかを理解しながら対応することが、トップ面談を成功させるポイントになります。


●よくある質問3:「譲渡後、オーナーは会社に残りますか?」

3つ目は、「譲渡後もオーナーは会社に残りますか?」という質問です。これは非常に重要なポイントです。
買い手にとって、買収後にどのような経営体制になるのかは、とても重要なポイントです。
譲渡後もオーナーが数年間会社に残って引き継ぎを行うのか、それとも一定期間で退任するのかによって、買収後の計画は大きく変わります。

残ることも、退任することも、どちらも間違いではない
M&Aでは、一定期間引き継ぎを行った後にオーナーが退任するケースは珍しくありません。
会社を引き継いだ後、新しい社長や経営陣を配置するのは、基本的には買い手の役割だからです。
一方で、譲渡後も会社に残り、経営をサポートしたいと考えるオーナーもいます。
これも決して悪いことではありません。
買い手によって希望は異なる
買い手の考え方はさまざまです。
例えば、
- 「社長がしばらく残ってくれた方が安心できる」
- 「取引先や社員との関係を引き継いでほしい」
と考える買い手もいれば、
- 「できるだけ早く新しい経営体制へ切り替えたい」
- 「前オーナーが長く残ると経営が進めにくい」
と考える買い手もいます。
つまり、正解は一つではなく、買い手によって求める形が異なるということです。
譲渡後の希望は早めに整理しておく
そのため、売り手は譲渡後にどのように会社へ関わりたいのかを、早い段階で整理しておくことが大切です。
買い手からは、
- 残る予定なのか、それとも退任するのか
- 残る場合は何年間なのか
- どのような役割を担うのか
- 報酬や権限はどう考えているのか
といった点を確認されることがよくあります。
これらは、買収後の経営体制を設計するために欠かせない情報だからです。
自分の希望を明確にしておくことが大切買い手からよくある質問③「譲渡後もオーナーは会社に残りますか?」自分の希望を明確にしておくことが大切
譲渡後の関わり方に正解はありません。
大切なのは、売り手自身が譲渡後の働き方や役割について考えを整理し、それを買い手へ明確に伝えることです。
そうすることで、買い手も買収後の経営体制をイメージしやすくなり、安心してM&Aを進めることができます。


●よくある質問4:「キーマンは誰ですか?組織はどうなっていますか?」

4つ目は、組織とキーマンに関する質問です。
オーナー社長が退任する予定であれば、買い手は必ず次のような点を確認します。
- 製造部門の責任者は誰か
- 営業の中心人物は誰か
- 現場をまとめている人は誰か
といった点を確認します。
また、肩書きだけではなく、その人が実際にどれだけ会社を動かしているのかも見ています。
買い手が知りたいのは、社長が退任した後も組織として会社が機能するかどうかなのです。
大企業でも人材が余っているわけではない
「買い手は大企業だから、後任の社長くらいすぐ見つかるだろう」と思われるかもしれません。
しかし、実際はそうではありません。
私が経験した案件でも、買い手は上場企業でしたが、売り手の社長の後任を決めるまでに時間がかかりました。
大企業でも、社長を任せられる人材が余っているわけではありません。
そのため買い手にとっても、買収後の経営体制をどう作るかは大きな課題なのです。
買い手は買収後の組織をイメージしている
買い手は、社長が退任した後に、買収後の組織づくりを初期段階から考えています。
例えば、
- 誰を中心に会社を運営するのか
- 自社から誰を派遣するのか
- どの部門はそのまま残すのか
- どの部門を自社へ統合するのか
といったことを検討しています。
また、自社からどれだけ人材を投入する必要があるのかも重要な判断材料です。
多くの人材や時間が必要な会社ほど、買い手にとってはリスクが高くなり、その評価は価格にも影響します。
買い手が最も心配するのは、キーマンの退職
買い手が特に心配するのは、社長だけでなく、重要な社員まで一緒に退職してしまうことです。
例えば、
- 社長と幹部社員が同時に辞める
- 社長が社員を連れて新会社を設立する
- 営業責任者や工場長などのキーマンが退職する
こうした事態は、買い手にとって大きなリスクになります。
そのため契約書には、売り手が同業で新たな事業を始めないようにする競業避止条項が盛り込まれることもあります。
また、買い手は「キーマンは譲渡後も会社に残ってくれるのか」という点も慎重に確認しています。
キーマンが残るかどうかは企業価値にも影響する
買い手は、会社だけを買うのではありません。
**「誰が会社を支えているのか」「その人たちが譲渡後も残ってくれるのか」**まで含めて企業価値を判断しています。
そのため、売り手としても、キーマンや組織体制を整理し、安心して引き継げる体制を説明できるよう準備しておくことが大切です。


●よくある質問5「重要な契約や資産は引き継げますか?」

5つ目は、ビジネス上の重要な契約や資産を引き継げるかどうかです。
トップ面談でよく確認されるのが、重要な契約や資産を譲渡後も引き継げるかどうかです。
ここで関係するのがCOC(チェンジ・オブ・コントロール)条項です。会社の支配権が変わることを意味します。
会社の支配権が変わった場合に契約内容へ影響が及ぶ可能性がある条項です。
買い手は、会社を買収した後も、これまでどおり事業を継続できるのかを確認しています。
重要な契約が引き継げなければ会社の価値は下がる
例えば、店舗ビジネスの場合、店舗の賃貸借契約が引き継げず退去しなければならないとしたら、その場所で営業を続けることはできません。
また、メーカーから独占販売権やライセンスを受けている会社であれば、その契約が引き継げなければ、これまでの同じビジネスは成り立たなくなります。
そのため買い手は、
- 店舗や工場は引き継げるか
- 販売権やライセンスは継続できるか
- 主要取引先との契約は問題ないか
- 必要な許認可は維持できるか
といった点を重点的に確認します。
真剣な買い手ほど早い段階で確認してくる
このような重要事項を初期段階で確認してくる買い手は、本気で買収を検討しているケースが多いと感じます。
会社の価値に直結するポイントだからです。
一方で、まだ初期段階にもかかわらず、デューデリジェンスで確認するような細かな質問が大量に届くこともあります。
そのような場合は、すべてを急いで回答するのではなく、今回答すべき内容と、後から確認すればよい内容を整理することも大切です。
売り手側アドバイザーは質問の意図を整理する
私は売り手側アドバイザーとして、買い手から届いた質問を、そのまま売り手へ渡すことはありません。
まず質問内容を確認し、回答できる部分は整理したうえで、
- 「この回答で問題ありませんか」
- 「ここだけ追加で教えてください」
- 「私が整理して買い手へ回答します」
という形で進めています。
また、売り手から
「なぜ今この質問をされるのですか?」
と聞かれることもあります。
その際には、
- 今確認する必要がある質問なのか
- 後日回答すればよい質問なのか
- 買い手は何を心配しているのか
を整理してお伝えしています。
質問の背景を理解すると対応しやすくなる
買い手は、細かい質問をすること自体が目的ではありません。
「買収後も事業を問題なく続けられるか」を確認するために質問しています。
その意図を理解して対応することで、売り手も落ち着いて受け答えができ、トップ面談やその後の交渉もスムーズに進めることができます。
まとめ
買い手の立場を理解することが
大切です。
冒頭でもお伝えしたように、会社売却を有利に進めるためには、買い手の立場を理解することが大切です。
買い手からの質問には、すべて理由があります。
- なぜ今、会社を売るのか
- 希望価格はどれくらいか
- 譲渡後もオーナーは会社に残るのか
- キーマンや組織体制はどうなっているのか
- 重要な契約や資産は引き継げるのか
これらの質問は、買い手が「買収後も安心して会社を経営できるか」を確認するためのものです。
会社売却を検討している方は、買い手が不安に感じるポイントを事前に整理し、説明できるよう準備しておくことが重要です。
買い手の不安を解消できる会社ほど、信頼を得やすくなり、高い評価やより良い条件での会社売却につながります。

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この記事を書いた人
会社売却2.0


