M&Aのマリッジブルーとは?契約前に売手がブレイクを考える理由

株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)

  • M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
  • ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
  • 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
  • M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。

●会社売却が進み、あとは契約を結んで引き継ぐだけ。それなのに、「本当にこの条件でよいのだろうか」「一度やり直したほうがよいのではないか」と感じることがあります。

M&Aでは、こうした売手オーナーの迷いを「マリッジブルー」と呼ぶことがあります。ただ、この言葉で片付けてしまうと大事な原因を見落とすと思っています。価格を決めるまでの過程や、売却後に負う責任について、十分な説明と交渉ができていないのかもしれません。

多くの経営者にとって、会社売却は一生に一度の大きな決断です。不安を抱くこと自体がおかしいわけではありません。会社売却2.0では、その不安がどこから生まれているのかを確かめ、納得できる条件と進め方を一緒に考えることを大切にしています。

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マリッジブルーとは?

契約前に売手が
ブレイクを
考える理由

「社長の気が変わった」で済ませてはいけません。

M&Aの交渉が途中で中止になることを、一般に「ブレイク」といいます。
最終契約や決済が近づいたところで売主が中止を申し出ると、支援している側からは「ここまで進めたのに・・」と感じるかもしれません。

しかし、売却直前のブレイクを、売主の気まぐれだと決めつけるのは違うと思います。
大切に育ててきた会社を手放し、その対価を受け取り、次の人生へ進むのです。だからこそ、売手オーナーにとって重要なのは、売却価格だけではなく、「十分に検討し、納得できる条件で会社を売却できた」と思えることです。非常に大きな問題です。
例えば、最終段階になって次のような疑問が生じることがあります。

「ほかの買手にも話を聞いていれば、もっと高く売れたのではないか」

「この契約で、後から大きな負担を求められないだろうか」

こうした疑問が残っていれば、最後の段階で立ち止まりたくなるのは自然なことです。

会社売却2.0が重視しているのは、売主を説得して予定どおりに終わらせることだけではありません。そもそも、なぜ納得できていないのかを確かめることです。

売却直前のブレイクを防ぐためには、こうした不安や疑問を最終段階まで残さず、交渉の過程で一つひとつ解消していくことが重要です。

売却が近づくほど、これまでの進め方が気になります

最初は「専門家に任せているから大丈夫」と思っていても、売却が現実に近づくにつれて、これまでの一つひとつの判断が気になってきます。買手をどのように探したのか、条件をどこまで交渉したのか。説明を受けていなければ、後から振り返るための材料がありません。

十分に比較したうえで選んだ条件なら、「すべてが理想どおりではなくても、今回はこれがよい」と考えられます。一方、進め方が見えないままだと、もう一度やれば違う結果になるのではないかと思ってしまいます。

売主の気持ちだけを整えようとしても、価格や契約への疑問が残っていれば解決しません。大切なのは、何に不安を感じているのかを明らかにし、売却活動の経緯や交渉結果を確認して、納得できる状態にすることです。

「この価格になった理由」を説明してもらいましょう

会社の譲渡価格が3億円でも、5億円でも、経営者が知りたいのは「なぜその金額になったのか」ということです。
そのためには、金額そのものに加えて、その価格を引き出すまでに何をしてくれたのかが重要になります。

例えば、次のような点です。

  • 会社の収益力や強み、成長性などを十分に評価したうえで、売却希望価格を設定したのか。
  • 自社の価値を高く評価してくれる可能性のある買手候補を、幅広く探したのか。
  • 複数の買手候補から提示された価格や条件を比較できたのか。
  • よりよい条件を引き出すために、十分な交渉を行ったのか。

こうした過程がわからないまま、M&Aの専門家から「この価格が相場です」と説明されても、売手オーナーが十分に納得するのは難しいでしょう。

たとえば、「やり直せば3割高く売れるのでは」と感じるほど疑問が残っているなら、その理由を確かめる必要があります。
もちろん、実際にやり直せば3割上がるという意味ではありません。そう思ってしまう背景に、比較や説明の不足がないかを確認したいのです。

会社売却2.0では、最終的な譲渡価格だけでなく、どのような買手候補にアプローチし、どのような価格や条件が提示され、どのような交渉を行ったのかについても、売手オーナーと情報を共有します。

大切なのは、単に提示された価格を受け入れることではなく、その価格に至った理由を理解し、納得したうえで売却を決断できることです。

「よくある契約です」だけでは、不安はなくなりません

もう一つは、契約の内容です。株式譲渡契約書などを渡されて、「普通はこのような内容です」と説明されても、それで自分の負担が分かるわけではありません。

特に重要なのは、どのようなときに責任を負うのか。その責任はどこまで続くのか。交渉によって変えられる部分はないのか。こうした点が分からなければ、押印する直前になって不安が強くなることがあります。売却後にどのような責任を負うのか、その責任はいつまで続くのか、補償金額に上限はあるのかといった点です。こうした内容を十分に理解しないまま最終段階を迎えると、契約直前になって不安が強くなることがあります。

売主が求めているのは、何もかも自分に有利な契約とは限りません。「ここは交渉して変えられた」「ここは相手にも事情があり、受け入れる必要がある」と理解できれば、判断はしやすくなります。

大切なのは、価格と契約の両方について、何度振り返っても「必要なことはやってもらった」と売手オーナー自身が思えることです。

会社の売却価格は、計算だけでは決まりません

会社は、同じものが二つとない商品です。業績が似ていても、顧客、社員、事業の強みはそれぞれ違います。そのため、計算で出した金額だけを見て「これが唯一の正しい価格です」とは言えません。

もちろん、利益や資産、将来の収益などから参考となる価格を考えることはできます。ただし、その会社を実際に欲しいと考える買手が、いくら出せるかは別の話です。
企業価値の算定は、売却価格を検討するための重要な目安です。しかし、実際にいくらで売却できるかは、その会社を買いたいと考える買手の評価や、買収によって期待できる効果などによって変わります。

会社売却2.0では、企業概要書に希望価格や価格帯を示し、買手候補の反応を確かめます。買手候補が会社の強みや将来性をどのように評価し、いくらの価格を提示するのかを確認することで、より高い価格で売却できる可能性を探ります。

複数の仲介会社を通じて、買手の選択肢を広げます

会社売却2.0では売手専任の立場で、大手を含む複数の仲介会社に買手探しを依頼します。それぞれが候補を探し、関心を持った買手との面談や意向表明につなげます。

複数の買手候補から意向表明を受けることができれば、価格や契約条件を比較し、競争環境の中でよりよい条件を引き出せる可能性が高まります。一社だけの提示に対して「これが普通です」と判断する場合とは、納得するための材料が違ってきます。

もちろん、どの会社にも多くの買手が集まるわけではありません。候補が多い会社もあれば、なかなか見つからない会社もあります。大切なのは、会社の状況に応じて、できる限りの範囲で買手を探し、その結果を売主と共有することです。

「幅広く探した結果、この会社からこの条件が出た」と分かれば、売主も現実的に判断できます。必ず最高額を保証できるということではありませんが、価格の根拠を確かめるうえで欠かせない過程だと考えています。

買手に渡す情報の精度も大切です

多くの買手に声をかけても、会社の内容が正しく伝わっていなければ、十分な評価は受けられません。会社売却2.0では、企業概要書の精度を高め、後のデューデリジェンスで大きな認識の違いが出ないように準備し、買手から適切な評価を得られるようにすることを重視しています。

デューデリジェンスは、買手が会社の財務や法務などを詳しく調べる手続きです。最初に伝えた内容と調査で分かった内容が大きく違えば、価格や条件の見直しにつながることがあります。

高く見せることだけを考えるのではなく、会社の実態を正しく伝える。その積み重ねが、最後まで納得して進められる取引につながります。

会社売却2.0

M&Aの株式譲渡契約書を買手側の弁護士が契約書を作る場合、買手の利益を守る内容になるのは、その立場からすれば自然なことです。
そこで売主側も、自分の立場で確認し、必要な修正を求める体制を持つ必要があります。

会社売却2.0では、私と売主側の弁護士が一緒に内容を確認します。これまでの交渉経緯と照らし合わせ、売主が負うリスクや、受け入れられない条件について協議します。

一度のやり取りで全部が決まるとは限りません。相手の事情も確かめながら、譲れる部分と譲れない部分を調整し、双方が合意できる内容へと交渉を進めます。

交渉の結果と、残るリスクを売主に伝えます

M&Aの契約は双方が合意して成立するものです。売主の希望がすべて通るわけでも、買手の希望をすべて受け入れるわけでもありません。

大切なのは、どの条件を交渉によって改善できたのか、どの条件は受け入れる必要があるのかを、売手オーナー自身が理解していることです。

だからこそ、会社売却2.0では「ここは修正できた」「ここは受け入れる必要がある」という経緯も説明します。あわせて、どのような場合に売主の負担が生じるのかを、できるだけ具体的にお伝えします。

そうした説明を受け、自分でも内容を理解して決められれば、契約直前の受け止め方は変わります。漠然とした不安を抱えたまま押印するのではなく、リスクを理解したうえで次へ進めるからです。

もちろん、長く経営してきた会社を手放す寂しさまでなくなるわけではありません。それでも、「売却価格も契約条件も、必要な検討と交渉を十分に行った」と納得できる状態を作ることが、売却直前のマリッジブルーやブレイクを防ぐために重要だと考えています。

まとめ

M&Aの契約直前に売却をやめたくなる背景には、価格の決め方や契約内容に対する具体的な不安がある場合があります。それを「マリッジブルー」という言葉だけで片付けず、何に納得できていないのかを確かめることが大切です。

買手を幅広く探し、価格を比較し、売主側の弁護士と契約を交渉する。こうした過程を共有することで、売主が自分の判断に納得しやすくなります。

不安が強いときは、そのまま進める以外の選択も含めて相談してください。中止や仕切り直しを考える場合は、すでに結んだ契約や義務を弁護士と確認したうえで判断しましょう。

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