株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)
- M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
- ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
- 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
- M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。
会社売却の交渉中でも、会社の経営は止まりません。売上が増減することもあれば、経費の支払い、人員の入退社、設備投資、配当など、日々さまざまな出来事が起こります。
しかし、M&Aの交渉が進んでいる段階で、売手オーナーが何気なく行った行為が、買手にとって大きな「サプライズ」になることがあります。場合によっては、譲渡価格の減額や条件変更、最悪の場合は破談につながることもあります。
この記事では、M&Aの実務で問題になりやすい「売却交渉中にやってはいけないこと」について、設備投資、配当、会社からの借入、売上の大幅な増減などの具体例を交えながら解説します。
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目次
やってはいけないこと
破談につながる
設備投資・配当・
売上変動とは
1.概要書は出発点となる重要資料
M&Aでは、最初に会社の「概要書」を作成します。
概要書には、事業内容や財務状況、労務、契約関係など、会社の重要な情報をできる限り正確にまとめます。
もちろん、最終的な内容はデューデリジェンス(買収監査)で確認されます。しかし、買手候補はまず概要書を見て会社を評価するため、概要書の精度がその後の交渉を大きく左右します。
私は、概要書こそM&Aの原点となる資料だと考えています。

・概要書には「基準期」があります
概要書は、ある時点の会社の状況を基準として作成します。
例えば9月決算の会社であれば、9月決算が確定する11月頃の数値をもとに概要書を作成し、12月に完成、翌1月から買手候補への打診を開始するケースが一般的です。
つまり、買手が最初に見る財務情報は「前年9月時点」の数字になります。
一方で、会社はその後も営業を続けています。
売上や利益、人員、資金繰りなどは日々変化するため、M&Aでは試算表を定期的に提出し、最新の業績を共有しながら交渉を進めていきます。

・日常的な変化は大きな問題ではない
会社を経営していれば、計画どおりに進まないことは珍しくありません。
- 売上が前年比で数%増減する
- 社員が退職・入社する
- 経費が多少増減する
こうした日常的な変化は、多くの会社で起こることであり、通常であればM&Aに大きな影響はありません。
重要なのは、「通常の変化」と「前提を変えてしまう大きな変化」を区別することです。

2.M&A交渉中に売手がやってはいけないこと

① 大きな設備投資を勝手に行わない
通常の設備更新であれば問題ありません。
しかし、例えば年商10億円の会社が突然1億円規模の設備投資を行えば、買手から見る会社の前提が大きく変わります。
もちろん、経営上どうしても必要な投資であれば実施すべき場合もあります。
その際は、
- アドバイザーへ事前相談する
- 買手候補へ事前に説明する
ことが重要です。
金額提示前なら条件に反映できる
まだ買手から価格提示を受けていない段階であれば、
「この設備投資を前提に価格をご検討ください」
と説明できます。
つまり、設備投資の内容を織り込んだうえで企業価値を評価してもらえます。
意向表明後・独占交渉中は特に注意
一方、意向表明を受け、独占交渉やデューデリジェンスに入ってから大きな投資を行うと、
「聞いていた前提と違う」
となり、交渉が難しくなる可能性があります。
この段階では、大きな設備投資は原則避け、必要な場合は必ず事前に相談しましょう。

② 配当を行う場合は必ず共有する
例えば会社から2,000万円の配当を出すと、その分だけ会社の現預金が減ります。
つまり、会社の企業価値も2,000万円減ることになります。
配当そのものが悪いわけではありません。
重要なのは、
「配当を行ったことを買手へ説明し、その分を譲渡価格へ反映すること」
です。
配当を行うタイミングによって、
- 意向表明前なら、その前提で価格を提示してもらう
- 意向表明後なら、その分だけ譲渡価格を調整する
という対応になります。


③ オーナーが会社からお金を借りない
交渉中にオーナーが会社から資金を借りるケースもあります。
この場合は、クロージングまでに会社へ返済し、貸付金を解消する必要があります。
買手は、オーナーへの貸付金が残った状態で会社を引き継ぐことを望みません。
借入を行った場合は、必ず事前に共有し、クロージングまでに精算しましょう。

④ オーナー個人のための資産を会社で購入しない
オーナー個人が使う車や資産などを会社名義で購入することも避けるべきです。
買手から見ると、本業とは関係のない支出であり、不信感につながる可能性があります。
どうしても必要な場合は、
- オーナー個人が買い取る
- クロージングまでに精算する
などの対応が必要になります。


3.売手オーナーが特に意識すべきこと
しかし、そこから外れるイレギュラーな出来事については、注意が必要です。
通常の経営は
そのままでよい
M&A中だからといって、会社の経営を止める必要はありません。
例えば、
- 通常の仕入れ
- 毎年支払っている賞与
- 日常的な経費
- 数十万円程度の通常投資
などは、通常どおり行って問題ありません。
必要以上に慎重になる必要はありません。
しかし、大きな投資は経営を変える可能性がある
前提を変えるような行為は必ず相談する
一方で、
- 大型設備投資
- 多額の配当
- オーナーへの貸付
- 大きな資金移動
などは、会社の前提を変える可能性があります。
想定を超える大きな支出や投資を行うのであれば、必ずアドバイザーに相談し、買手候補にも共有しながら進める必要があります。

4.最も避けるべきなのは
「サプライズ」
M&Aでは、買手にとってのサプライズが最も大きなリスクになります。
問題なのは、
「なぜ事前に教えてくれなかったのですか」
と思われることです。
小さなことでも迷ったらアドバイザーへ相談し、必要に応じて買手へ共有することで、多くのトラブルは防ぐことができます。


5.想定以上の売上変動は
どう考えるべきか
M&Aでは、過去の決算を基準期として会社の価値を評価します。しかし、交渉を進めている間も会社は営業を続けているため、基準期以降の売上が当初の想定から大きく増減することがあります。
売上の変動が小さければ、日常的な業績のブレとして扱えます。一方、当初の前提を大きく変えるほどの増減が起きた場合は、譲渡価格や交渉の進め方を見直す必要があります。
売上が15%減少した場合は、いったん交渉を止めることも必要
例えば、「売上は前年並みで推移する」という前提で交渉を始めたにもかかわらず、実際には売上が15%減少していたとします。
買手から見れば、会社を評価したときの前提が大きく変わったことになります。そのまま同じ条件で交渉を進めることは難しいでしょう。
このような場合は、無理に交渉を続けるのではなく、
「当初の想定から業績が大きく変わったため、いったん交渉を止めて条件を見直しましょう」
と判断することも必要です。
もちろん、買手が事情を理解したうえで、譲渡価格を見直しても買収したいと考えるのであれば、交渉を続けることは可能です。
ただし、横ばいを前提としていた会社の売上が15%減少したのであれば、当初の条件のまま進めることは難しいと考えるべきです。
売上が15%増加した場合も、価格の見直しが必要になる
反対に、売上が15%増加した場合はどうでしょうか。
売手としては、業績が大きく伸び、会社の価値も高まったのだから、譲渡価格を引き上げてほしいと考えるのが自然です。
一方、買手はすでに一定の業績と価格を前提として社内検討を進めています。そのため、交渉の途中で譲渡価格を引き上げることは、実務上簡単ではありません。
それでも、15%の売上増加は、当初の前提を大きく変える変化です。
売手としては、
「業績が想定以上に伸びているため、その分を譲渡価格に反映してほしい」
と交渉することになります。
買手が価格の見直しに応じない場合は、いったん交渉を止め、改めて会社を評価し直すことも選択肢になります。
大きな上振れも下振れも、当初の前提を変える
このような場合は、感情的に主張をぶつけ合うのではなく、変化の原因や今後の見通しを整理し、必要に応じて価格や条件を見直すことが大切です。
3%程度の増減は日常的なブレの範囲
一方、売上の増減が3%程度であれば、一般的には日常的な業績のブレの範囲と考えられます。
多少の増減であれば、基本的には当初の条件を維持したまま交渉を進めます。
ただし、売上や利益が当初の前提から大きく変わった場合は、その変化を買手に共有し、譲渡価格や交渉条件を改めて検討する必要があります。
6.売手が
取り組むべきこと
M&A交渉中は、通常どおり会社を経営することが基本です。
一方で、会社の前提を大きく変えるような行為には十分注意する必要があります。
特に、
- 大きな設備投資
- 多額の配当
- オーナーへの貸付
- 個人的な資産購入
- 大きな売上変動
など、買手の判断や企業価値に影響を与える可能性がある行為は、独断で進めるべきではありません。
特に、特定の買手との交渉が始まり、意向表明や独占交渉の段階に入った後は、当初の前提を変えるような判断をする場合、必ず事前にアドバイザーへ相談し、必要に応じて買手にも共有することが大切です。
これはM&Aを円滑に進めるためのマナーであり、信頼関係を維持するためにも欠かせません。
イレギュラーな出来事を事前に共有せず進めてしまうと、買手の不信感を招き、価格の見直しや交渉の中断、場合によっては破談につながることもあります。
判断に迷うことがあれば、一人で決めず、まずはアドバイザーに相談することが、M&Aを成功させる大切なポイントです。
まとめ
大切なのは、
サプライズを起こさないことです。
M&Aを進めている途中でも、会社にはさまざまな出来事が起こります。
日常的な売上の増減、通常の経費、定例的な支払い、人員の入退社などは、会社経営をしている以上、ある程度は避けられません。
しかし、M&Aの交渉中に大きな設備投資をする、配当を出す、会社からオーナーが借入をする、オーナー個人用の資産を会社で購入するなど、買手から見て当初の前提が変わる行為には注意が必要です。
大切なのは、サプライズを起こさないことです。
買手にとって想定外のことが起きると、不信感につながります。
場合によっては、譲渡価格の減額や、交渉の仕切り直し、さらには破談につながることもあります。
売手オーナーは、判断に迷うことがあれば、必ずアドバイザーに相談してください。
特定の買手と協議に入った段階で、想定以上のことを行う場合は、事前の協議が必要です。

しっかりと相談しながら、買手との信頼関係を壊さないように進めることが、円満な会社売却につながります。
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この記事を書いた人
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