株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)
- M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
- ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
- 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
- M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。
会社売却を進める際、買手企業にはさまざまな種類があります。
売主の立場からすると、「どの会社に売るのがよいのか」「事業会社とファンドでは何が違うのか」「高く売れる相手はどのような買手なのか」といった点は、非常に気になるところだと思います。
買手企業は、世の中に数多く存在しますので、すべてを一言で分類することは簡単ではありません。
ただし、大きく分けると「事業会社」と「ファンド」があります。さらに事業会社は大きく2種類、ファンドは大きく3種類に分けて考えることができます。
今回は、売主の立場から見て、買手企業にはどのような種類があり、それぞれどのような特徴があるのかを解説します。
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目次
買手はどう選ぶ?
ファンドと
事業会社は
どちらがよい?
買手の種類①
同じ業界の事業会社

まず代表的なのが、事業会社による買収です。
事業会社とは、実際に事業を営んでいる会社のことです。
例えば、飲食店を複数展開している会社が、同じ飲食業の会社を買収するケースがこれに当たります。
事業会社による買収の大きな特徴は、シナジー(相乗効果)が期待できることです。
例えば、買手がまだ展開していない業態を10店舗運営する会社を買収すれば、その業態をグループに取り込むことができます。
買収後は、
- 既存店舗の活性化に活かす
- 成功している業態を多店舗展開する
- 仕入れや人材をグループ内で共有する
など、さまざまな相乗効果が期待できます。
このように、既存事業をさらに成長させることを目的とした買収が、事業会社によるM&Aです。
同じ業界で事業を行っているため、業界への理解が深く、買収後の経営イメージを持ちやすいことも特徴です。
そのため、売主にとっても話が進みやすく、会社売却では最も一般的な買手の一つといえるでしょう。


買手の種類②
異なる業界の事業会社

事業会社による買収には、もう一つのパターンがあります。
それが、異なる業界の会社を買収するケースです。
これは、買手企業が新規事業へ進出するために、すでに事業として成り立っている会社を買収するという考え方です。
新しい事業をゼロから立ち上げるには、多くの時間とコストがかかります。
例えば、
- 人材を採用する
- ノウハウを蓄積する
- 顧客を獲得する
- 利益が出る事業へ育てる
といったプロセスが必要になります。
そこで、すでに事業が軌道に乗り、利益も出ている会社を買収することで、新規事業を一気にスタートさせようと考える企業も少なくありません。
このように、M&Aを新規事業への参入手段として活用するケースも多くあります。
つまり、事業会社による買収は大きく分けると、次の2つです。
- 現在行っている事業の延長線上で買い足すケース
- 新規事業として新しい領域に進出するために買収するケース
実際に買手候補を募集すると、
「この会社は、売却対象会社とはまったく関係がない業界ではないか」
と思うような企業から問い合わせを受けることがあります。
しかし、現在は多くの企業が新規事業や事業の多角化を積極的に進めています。
一見すると関係のない業界に見えても、買手企業には明確な事業戦略があることも少なくありません。
そのため、「この会社は関係なさそうだから」と最初から候補から外すのではなく、先入観を持たずに話を聞いてみることが大切です。
思いがけない企業が、最適な買手になることもあります。


買手の種類③
長期保有型ファンド

事業会社のほかに、買手としてファンド(投資会社)が候補になることもあります。
「ファンド」と聞くと、昔のハゲタカファンドのようなイメージを持つ方もいらっしゃいます。
しかし、現在のファンドはさまざまで、「ファンドだから良くない」と考える必要はありません。
大切なのは、そのファンドがどのような目的で会社を買収しようとしているのかを理解することです。

●長期長期保有を前提とする
ファンドが増えている
最近増えているのが、短期間で売却することを目的とするのではなく、中長期的に企業価値を高めることを目指す長期保有型の投資ファンドです。
ファンドは投資家から資金を集め、その資金を使って企業を買収・成長させる投資会社です。
例えば、飲食業界へ本格的に参入したい場合、すでに利益を出している飲食会社を買収し、その会社を中心に事業を拡大していきます。
このようなファンドは、短期間で売却することを目的とするのではなく、長期的に事業を育てることを重視しています。
●最初に買収する会社は
重要になる
長期保有型ファンドにとって、最初に買収する会社は非常に重要です。
例えば、介護業界へ新規参入する場合、1店舗だけの小規模な事業所ではなく、その後の事業拡大の土台となる会社を求めることが多くあります。
そのため、
- 一定の事業規模がある
- 安定した利益を出している
このような会社が高く評価される傾向があります。
例えば、EBITDAが3億円や5億円規模の会社であれば、魅力的な買収対象となり、高い価格が提示されることもあります。
●その後は
小規模な会社も買収していく
基盤となる会社を買収した後は、同じ業界の会社を次々に買収し、事業を拡大していきます。
この手法をロールアップ戦略といいます。
例えば、介護事業を展開しているファンドであれば、
- 同じエリアにある会社
- 車で移動できる範囲の事業所
- 2~3施設規模の会社
など、小規模な会社でも買収対象になることがあります。
つまり、大きなファンドだから小さな会社を買わないというわけではありません。
すでにその業界へ参入しているファンドであれば、小規模な会社も十分に買収対象になります。
●ファンドは
有力な買手候補の一つ
一般的に、譲渡価格が数億円を超えるような案件になると、ファンドが買手候補として参加するケースが増えてきます。
このように、ファンドにもさまざまな種類があります。
「ファンドだから避ける」と判断するのではなく、
- 長期保有を前提としているのか
- どのような成長戦略を描いているのか
を確認し、自社に合った買手かどうかを見極めることが大切です。


買手の種類④
短期保有型ファンド

ファンドには、長期保有型だけでなく、短期保有型のファンドもあります。
短期保有型のファンドは、会社を買収した後、経営改善や組織強化によって企業価値を高め、数年後に第三者へ売却することを目的としています。
例えば、
- 不要な資産や事業を整理する
- 管理体制を整える
- 収益力を高める
といった取り組みを行い、3~5年程度で会社の価値を高めてから売却するケースが一般的です。
世間で「ファンド」と聞いてイメージされるのは、このような短期保有型のファンドかもしれません。
●短期保有型だから
悪いとは限らない
「数年後に会社を売却されるのでは」と不安に感じる方もいらっしゃいます。
しかし、短期保有型だから悪いというわけではありません。
一方で、事業会社だから必ず長期間保有してくれるとも限りません。
事業会社にも事業ポートフォリオがあり、
- 強化する事業
- 売却する事業
を定期的に見直しています。
そのため、事業会社でも将来売却される可能性はあります。
もちろん、一般的には事業会社の方が長期保有の傾向があり、ファンドの方が投資判断を合理的に行うケースが多いという違いはあります。
しかし、
「ファンドだからすぐ売る」
「事業会社だから絶対に売らない」
という単純なものではありません。
●短期保有型ファンドと相性が良いケースもある
実は、売主によっては短期保有型ファンドとの相性が良いケースもあります。
例えば、
「あと3〜4年は会社に残って引き継ぎを行い、その後は引退したい」
と考えているオーナー社長です。
このような場合は、会社を一旦ファンドへ売却し、その後も一定期間は経営に関わりながら後継者を育成することができます。
そして、引き継ぎが終わったタイミングで退任するという流れになります。
●再投資という仕組みもある
短期保有型ファンドでは、**再投資(ロールオーバー)**という仕組みを提案されることがあります。
例えば、会社を10億円で売却した場合、そのうち20%程度を、新しい会社へ再び投資しませんか、という仕組みです。
その後、ファンドが会社を成長させ、高い価格で再売却できれば、再投資した資金も大きなリターンを得られる可能性があります。
この仕組みは、
- 売主は将来の成長メリットを受けられる
- ファンドは社長に引き続き経営へ関わってもらいやすい
- 買収資金の自己資金を増やせる
というように、双方にメリットがあります。
●自社に合った買手を選ぶことが大切
短期保有型ファンドは、「数年後に企業価値を高めて売却する」という明確な戦略を持っています。
そのため、
- しばらく経営を続けたい
- 引き継ぎ期間を十分に取りたい
- 会社の成長にも引き続き関わりたい
というオーナー社長にとっては、有力な選択肢になることもあります。
大切なのは、
「ファンドだから良い・悪い」と判断するのではなく、
自社の希望や将来のビジョンに合った買手かどうかを
見極めることです。


買手の種類⑤
小規模のファンド

最近では、小規模なファンドも増えています。
もちろん、小規模なファンドだから悪いというわけではありません。
どのファンドも、最初は小さな規模からスタートし、実績を積み重ねながら成長していきます。
ただし、売主の立場では、事前に確認しておきたいポイントがあります!
●資金力や買収スキームを
確認することが大切
小規模ファンドの中には、自己資金がそれほど多くないケースもあります。
例えば、譲渡価格が3〜5億円程度の案件で、
- ネットキャッシュが豊富
- 借入金が少ない
- 利益が安定している
といった会社は、金融機関からの融資を受けやすく、買収しやすい会社と考えられます。
そのため、買手は自己資金をあまり使わずに、銀行融資を活用して買収するケースがあります。
このようなスキーム自体は、M&Aでは珍しいことではありません。
しかし、売主としては、
「なぜこの価格で買えるのか」
「資金計画に無理はないか」
という点を確認することが重要です。
●価格だけでなく、
買手の資金力も確認する
小規模ファンドの中には、資金効率を重視して買収価格を抑えようと考えるケースもあります。
そのため、価格交渉では慎重な判断が必要です。
もちろん、案件によっては、そのようなファンドと交渉した方が良い場合もあります。
一方で、より条件の良い買手が見込めるのであれば、比較検討することも大切です。
●トップ面談の前に
確認しておきたいポイント
私たちは、トップ面談の前段階で、買手の資金力や買収スキームを確認することがあります。
例えば、
- 買収資金はどのように調達する予定ですか。
- 自己資金と銀行融資の割合はどのくらいですか。
- どのような買収スキームを考えていますか。
といった点を確認します。
買手の資金力や買収スキームを把握したうえで、売主にとって安心して会社を託せる相手かどうかを見極めることが大切です。


●買手企業はどういう
視点で選ぶべきか

会社売却では、複数のM&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に協力してもらい、買手候補を探すことがあります。
私たちも案件によっては、大手仲介会社と連携し、多くの買手候補へアプローチしています。
大手仲介会社は買手ネットワークが広く、短期間で多くの候補が集まることも珍しくありません。
※しかし、重要なのは、集まった買手候補の中から「誰に会社を託すか」を見極めることです。
●売主の希望に合った買手を選ぶ
買手候補を検討するときは、
- 売主が何を大切にしているのか
- 買手はどのような目的で買収を考えているのか
- 売却後にどのような経営を目指しているのか
といった点を確認していきます。
最初の候補リストだけでは詳しいことは分かりません。
しかし、トップ面談の希望があったり、Q&Aが始まったりした段階では、それぞれの買手について詳しく確認していきます。
その中で、
「この会社は自社に合っている」
「この会社とは考え方が合わないかもしれない」
と判断していきます。
もちろん、最初から候補を絞り込み過ぎると、本来良い買手との出会いを逃してしまうこともあります。
※そのため、一定の選別はしながらも、前向きに検討している買手とは積極的に対話し、可能性を探っていくことが大切です。
●買手にはさまざまなタイプがある
買手には、大きく分けると次のような種類があります。
事業会社
- 同じ業界で事業を拡大する会社
- 新規事業として異業種へ参入する会社
ファンド
- 長期保有型ファンド
- 短期保有型ファンド
- 小規模ファンド
ただし、実際にはこれほど単純ではありません。
例えば、事業会社がファンドを運営しているケースや、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)のような形で投資を行う会社もあります。
※そのため、「事業会社だから安心」「ファンドだから不安」といった判断は適切ではありません。
●大切なのは「会社の名前」ではなく「買収の目的」
買手を選ぶうえで重要なのは、会社の種類や肩書きではありません。
本当に見るべきなのは、
- なぜこの会社を買収したいのか
- 買収後、どのような経営を考えているのか
- 売主や従業員をどのように考えているのか
という点です。
会社の名前や分類だけで判断するのではなく、その買手がどのような考えで会社を引き継ごうとしているのかをしっかり見極めることが、納得できる会社売却につながります。

●買手が会社を買う目的は知ることができるのか

売主であれば、
「この会社は、なぜ自社を買いたいのだろう?」
と気になるのは当然です。
結論からいうと、買手の目的は、ある程度知ることができます。
●買手の種類によって目的はある程度わかる
買手の種類を見ると、おおよその買収目的が見えてきます。
例えば、
- 同じ業界の事業会社なら、既存事業との相乗効果(シナジー)を期待していることが多くあります。
- 異業種の事業会社なら、新規事業への参入を目的としているケースが考えられます。
- 長期保有型ファンドなら、中長期的に事業を育て、企業価値を高めることを目指していることが多いでしょう。
- 短期保有型ファンドなら、経営改善によって企業価値を高め、数年後の売却を視野に入れている場合があります。
もちろん、実際には複数の目的を持って買収を検討しているケースもあり、理由を一つに決められるわけではありません。
それでも、買手の特徴から、ある程度の方向性を把握することはできます。
●会社概要や過去の実績からも判断できる
現在では、多くの企業がホームページを公開しています。
また、M&Aの過程では、会社案内や事業内容、投資実績などの資料を提出してもらうこともできます。
こうした情報を見ることで、
- 現在どのような事業を展開しているのか
- これまでどのような会社を買収してきたのか
- 今後どのような事業を強化したいと考えているのか
といったことが見えてきます。
そのため、
「この会社は、このような目的で買収を検討しているのだな」と理解できることも多いです。
そのため、買手の目的をまったく知ることができないわけではありません。
買手の会社概要や事業内容、過去の投資先、今後の方針などを確認しながら、ある程度の意図を理解したうえで進めていくことになります。


●売主の意向と
買手の目的を
マッチングさせることが重要!

会社売却では、さまざまな買手候補が出てきます。
その中で最も大切なのは、売主の意向と買手の目的が合っているかを見極めることです。
たくさん買手候補が出てきた場合は、売主側が選ぶことができます。
案件によってはトップ面談を多数設定することもあります。短期間で多くの会社と面談してもらい、実際に話を聞くことで、それぞれの考え方や会社の雰囲気を知ることができ、売主に納得していただけるように進めることもあります。
私たちも面談に同席し、売主が安心して判断できるようサポートしています。
●買手が多ければ選択肢は広がる
買手候補が多い案件では、売主の希望に合った相手を選びやすくなります。
一方で、人気があまり高くない案件案件では、限られた買手候補の中で、何とか接点を見つけて進めていく必要があります。
そのため、双方の意向を踏まえながら、ビジネスとして折り合いをつけ、本来どういう形がよいのかを考えていくことが重要です。
「売主に合った買手」を見極めることが大切なのです。
●お互いが納得できる相手を選ぶ
M&Aは、売主だけでも、買手だけでも成立するものではありません。
売主には、
- 希望する売却価格
- 従業員の雇用を守りたい
- 会社を成長させてほしい
といった思いがあります。
一方で、買手にも、
- 買収する目的
- 成長戦略
- 投資計画
があります。
そのため、お互いの考え方や目的を理解し、双方が納得できる形で条件をまとめていくことが重要です。
会社売却では、価格だけで買手を選ぶのではなく、「この会社なら安心して託せる」と思える相手を選ぶことが、満足度の高いM&Aにつながります。

まとめ
買手の名前ではなく、
中身を見て判断する
買手企業には、大きく分けて事業会社とファンドがあります。
事業会社には、同じ業界の会社を買収して事業を拡大するケースもあれば、新規事業として異なる業界の会社を買収するケースもあります。
また、ファンドにも、長期保有型、短期保有型、小規模ファンドなど、さまざまなタイプがあります。
大切なのは、「事業会社だから安心」「ファンドだから不安」といった表面的な見方をしないことです。
事業会社であっても、将来的に事業ポートフォリオの見直しによって売却することはあります。
一方で、ファンドであっても、中長期的に事業を育て、企業価値を高めようとしているケースもあります。
また、短期保有型のファンドであっても、売主社長が数年間会社に残り、引き継ぎを行いたい場合には、相性が良いこともあります。
買手を選ぶ際には、会社名や分類だけで判断するのではなく、
- なぜその会社を買いたいのか
- 買収後にどのように運営するのか
- 資金力や買収スキームに問題はないのか
- 売主の希望と合っているのか
を確認することが重要です。
買手の「名前」ではなく、「中身」を見て判断することが、納得できる会社売却につながります。

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この記事を書いた人
会社売却2.0


