正常収益力とは?会社の価格はどう決まるのか

株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)

  • M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
  • ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
  • 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
  • M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。

会社売却を検討するとき、多くの経営者が気になるのが「自社はいくらで売れるのか」という点です。

会社価格の査定では、営業利益やEBITDAなどの利益指標が重要になります。しかし、決算書に記載されている営業利益をそのまま使えばよいとは限りません。

中小企業では、社長報酬、家族役員の給与、交際費、車両費などに、事業運営に本当に必要な費用と、そうでない費用が混在していることがあります。

そのためM&Aでは、営業利益を実態に合わせて修正し、「正常な営業利益」や「正常収益力」を把握することが重要です。

この記事では、会社売却で正常収益力が重要な理由と、営業利益をどのように見直すべきかを解説します。

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正常収益力とは?
会社の価格はどう決まるのか

Q1.正常な営業利益(正常収益力)とは?

A. 会社売却を考えるうえで、非常に重要になる考え方が「正常収益力」です。

会社売却を考えるうえで、非常に重要になる考え方が「正常収益力」です。

「正常収益力」とは、簡単に言えば、その会社が本来の事業運営に必要な経費だけを使った場合に、実態としてどれくらいの利益を生み出せるのかを示す利益のことです。

決算書や申告書に記載されている営業利益は、もちろん会社の数字として正しいものです。しかし、会社売却で企業価値の算定をする際には、その数字をそのまま使えばよいというわけではありません。

会社には、事業運営に直接必要な費用だけでなく、経営者個人の事情や、家族役員への報酬、必要以上の交際費、車両費、交通費、コンサルティング費用などが計上されていることがあります。

そのため、会社の本当の収益力を把握するには、決算書の数字を見ながら、事業に必要な費用とそうでない費用を整理し、実態に合わせて利益を修正する必要があります。

M&Aでは、このように調整して算出した「正常収益力」が、会社の価値や譲渡価格を決める重要な基準になります。

会社を運営するために
本当に必要な経費だけに直す

正常収益力を算出する際は、まず直近の決算書を確認し、その会社を運営するために本当に必要な経費だけを残すように利益を調整していきます。

例えば、年商10億円、営業利益5,000万円の会社があるとします。

この会社が、社長の高い能力や人脈、判断力によって成り立っているのであれば、その社長の代わりを務める人材にも高額な報酬が必要になるかもしれません。

一方で、業務が仕組み化されており、社長が主に管理業務を行っているだけであればどうでしょうか。

もちろん会社をさらに成長させるためには経営者としての知恵や能力が必要です。しかし、既存事業を維持・管理するだけであれば、管理職クラスの人材でも対応できるケースがあります。

たとえば、現在の社長報酬が5,000万円だとしても、買主が後任として配置する人材の年収が1,200万円で十分であれば、差額の3,800万円は本来の事業運営には不要なコストと考えることができます。

その場合、

  • 決算書上の営業利益 5,000万円
  • 社長報酬の調整額  3,800万円

となり、

正常収益力は8,800万円

と考えることができます。

つまり、会社売却では決算書に記載された利益をそのまま使うのではなく、「買主が事業を引き継いだ場合に本当に必要となる経費はいくらか」という視点で見直しを行います。

その結果として算出される利益が、会社の価値を評価する際の基準となる「正常収益力」なのです。

交際費・車両費・交通費も実態に
合わせて見る

正常収益力を算定するときは、交際費や車両費、交通費についても実態に合わせて見直します。

社長がゴルフを年間50回、60回、あるいは70回、80回行っている場合もあります。

それが営業上どうしても必要な接待であれば、会社の事業に必要な経費と考えられるかもしれません。

しかし、そこまで接待をしなくても仕事が取れるのであれば、そのゴルフ代は本来、事業運営に必要な費用とはいえない可能性があります。

また、飲食代や交通費、車両費についても同様です。もちろん、その中には正常なお客様との接待も含まれているでしょう。

しかし、正直なところ、それ以外の部分があるのであれば、それは本当に事業に必要な経費なのかを見直す必要があります。

重要なのは、「その売上を生み出すために本当に必要な費用なのか」という視点です。

分かりやすく言えば、事業用費用と非事業用費用を分けて考える必要があります。

奥様や家族役員の報酬も
適正額に修正する

家族役員の報酬についても、正常収益力を算定する際の重要なポイントです。

たとえば、奥様が取締役として経理を担当して、年収2,000万円を受け取っているとします。

この場合も、その経理業務を、新しい人に代替した場合に、いくらで雇えるのかを考えます。

もし、その仕事が年収600万円で代替できるのであれば、差額である1,400万円は、正常な営業利益に加算できる可能性があります。

別の例として、奥様が年収1,000万円で、代替人材の年収が600万円であれば、修正額は400万円です。

※このように、家族役員の報酬についても、実際にその仕事を第三者に任せた場合にいくら必要なのかを考え、その適正額との差額を見ていきます。

余分な費用を調整すると
営業利益は大きく変わる

正常収益力を算定するときには、買主に会社を引き渡した後、本当に必要となる経費だけを残して考えます。

たとえば、当初の申告書上では営業利益が3,500万円だったとします。

もちろん、実際にその費用を使っており、給料も払っているので、申告書上の数字としては正しいものです。

しかし、社長報酬や家族役員報酬、交際費、車両費などを実態に合わせて修正した結果、合計5,000万円を利益に戻せると判断された場合、正常収益力は次のようになります。

  • 決算書上の営業利益 3,500万円
  • 利益への調整額   5,000万円

正常収益力 8,500万円

つまり、決算書では3,500万円の利益しか出ていないように見えても、実態としては8,500万円の利益を生み出せる会社だと評価される可能性があります。

この調整を行わずに会社価格を算定すると、本来より低い企業価値になってしまうことがあります。

そのため、会社売却では正常収益力を正しく把握することが非常に重要なのです。

Q2. 会社価格の査定時は正常収益力の把握が欠かせない

A. 会社売却の初回面談で「うちの会社はいくらで売れますか?」と質問されることがよくあります。

その際、まず確認するのは会社の概要です。

  • 売上はいくらか。
  • 営業利益はいくらか。
  • 社長はいくら報酬を取っているのか。
  • そして、社長は実際にどのような仕事をしているのか。

たとえば、社長報酬が年額6,000万円の会社があるとします。

しかし、お話を伺うと、「会社はすでに仕組み化されていて、自分はそれほど現場に関わっていない」と言われることがあります。

その場合、買主が社長の代わりとなる人材を採用したとき、いくらの報酬が必要になるのかを考えます。

もし年収1,200万円程度で十分に代替できるのであれば、差額の4,800万円は正常収益力の算定において営業利益へ加算できる可能性があります。

このように、会社価格を査定する際には、決算書上の利益だけではなく、正常収益力を把握することが欠かせません。

社長個人のための費用は
修正対象になる

正常収益力を算定する際には、社長個人のために使われている費用がないかも確認します。

たとえば、会社名義で社長がベンツのSクラス(高級車)を所有しているケースがあります。

もちろん営業活動や移動のために必要な部分もあるでしょう。

しかし、その車が本当に事業運営に必要なのか、それとも社長個人の趣味や利便性のための部分が大きいのかは検討する必要があります。

また、外注費が多く計上されているケースもあります。コンサルティング費用も同様です。

経営者が信頼しているコンサルタントに年間600万円を支払っているケースがあったとします。

その支出によって事業が成り立っているのであれば必要経費と考えられます。

一方で、一時的な相談のために依頼しており、今後は不要ということであれば、その費用は正常収益力の算定において調整できる可能性があります。

※このように、交際費、車両費、外注費、コンサル費用などについても、「本当に事業運営に必要な費用なのか」という視点で見直していきます。

修正しすぎてもいけない

ただし、正常収益力を算定する際は、費用を何でも削ればよいというわけではありません。
正常収益力の算定では、常識的に判断することが重要です。

事業に必要な費用まで削ってしまうと、実態とかけ離れた利益になってしまいます。

たとえば、奥様が経理業務を担当し、年収1,000万円の役員報酬を受け取っている場合を考えてみましょう。

その業務を第三者に任せた場合、年収500万円で代替できるのであれば、差額の500万円は利益に戻せる可能性があります。

しかし、実際には500万円では人材を確保できないのに、無理に300万円や200万円で計算してしまうと、現実とかけ離れた数字になってしまいます。

正常収益力の算定で大切なのは、「買主がその会社を引き継いだときに、本当に必要となる費用はいくらか」を常識的に考えることです。

適正な範囲で調整を行うことで、会社の本当の収益力が見えてきます。

その結果、決算書上の営業利益よりも、正常収益力が大きく増えるケースは少なくありません。

Q3. 正常収益力が強い会社とは

A. 正常収益力を算定していくと、ある傾向が見えてきます。

利益がしっかり出ている会社は、正常収益力に修正すると利益が増えることが多くあります。

一方で、利益がほとんど出ていない会社や、かろうじて黒字の会社は、正常収益力を算定すると利益が減ったり、場合によっては赤字になったりすることがあります。

では、その違いはどこにあるのでしょうか。

利益が出ている会社は、
正常収益力が高くなりやすい

利益が出ている会社では、社長報酬が高額だったり、事業運営に必ずしも必要ではない費用が計上されていたりすることがあります。

そのため、それらを実態に合わせて修正すると、決算書上の営業利益よりも正常収益力の方が大きくなるケースが少なくありません。

例えば、決算書上の営業利益が4,000万円だったとしても、社長報酬や各種経費を見直した結果、正常収益力が8,000万円になることもあります。

会社価格は利益を基準に算定されることが多いため、この差は企業価値に大きな影響を与えます。

利益が少ない会社は、
正常収益力が下がることもある

一方で、利益が少ない会社では、社長が本来受け取るべき報酬を抑えながら会社を支えているケースがあります。

例えば、社長が月額30万円の報酬で働いている会社があったとします。

しかし、その社長の代わりを外部から採用しようとすると、年収900万円程度は必要かもしれません。

この場合、決算書上では利益が出ていても、本来必要な人件費を反映すると利益は大きく減少します。

つまり、利益が少ない会社ほど、正常収益力を算定すると利益が下がる可能性があるのです。

正常な営業利益が分からなければ
企業価値は算定できない

会社価格を算定するときは、正常な営業利益を把握することが欠かせません。

企業価値の算定では、

  • EBITDA(営業利益+減価償却費)
  • DCF法(将来の収益力から算定する方法)

などが使われます。

しかし、もとになる利益が実態とズレていれば、どの算定方法を使っても正しい企業価値は出せません。

企業価値を知るためには、まず会社の本当の収益力を把握することが重要なのです。

簡易査定サービスの数字を
そのまま信じるのは危険

最近では、「3分で会社価値を診断」「自動で株価を算定」といったサービスも増えています。

もちろん参考にはなりますが、その結果をそのまま信じるのは危険です。

なぜなら、簡易査定では正常収益力の調整が十分に行われないことが多いからです。

例えば、決算書上の営業利益が4,000万円でも、正常収益力は8,000万円という会社があります。

逆に、利益が出ているように見えても、正常収益力では大幅に下がる会社もあります。

このように、入力する数字によって結果は大きく変わるため、決算書の数字だけで算定した会社価格は実態とかけ離れている可能性があります。

面談をすれば、より正確な会社価格の目安が分かる

一方で、実際に面談を行い、会社の状況を一つずつ確認していけば、正常収益力をかなり正確に把握することができます。

具体的には、

  • 売上高
  • 営業利益
  • 社長報酬
  • 家族役員報酬
  • 交際費
  • 車両費
  • 外注費
  • コンサルティング費用

などを確認していきます。

そうすることで、会社の本当の収益力が見えてきます。

その結果、

「この会社であれば、企業価値はおおよそ○億円から○億円程度」

という、大きく外れない会社価格の目安を把握することができます。

※会社売却を検討する際には、まず正常収益力を正しく把握することが、適正な会社価格を知る第一歩なのです。

Q4. B/Sも修正が必要?

A. 実はB/S、つまり貸借対照表についても同じように修正が必要です。

ここまでは、主にP/L、つまり損益計算書上の話をしてきました。

しかし、実はB/S、つまり貸借対照表についても同じように修正が必要です。

会社価格を考えるときには、P/LだけでなくB/Sも確認しなければなりません。

本当のネットキャッシュを把握する

B/Sを見る目的の一つは、本当のネットキャッシュを把握することです。

ネットキャッシュとは、

現預金 − 借入金

で計算される、実質的に会社に残っている資金のことです。

そのため、

  • 現預金はいくらあるのか
  • 借入金はいくらあるのか
  • 保険積立金はどれくらいあるのか
  • 貸付金の内容はどうなっているのか

などを確認していきます。

決算書に記載されている数字をそのまま見るのではなく、実際に使える資産がどれだけあるのかを把握することが大切です。

非事業用資産が
どれだけあるかを確認する

もう一つ重要なのが、非事業用資産の確認です。

非事業用資産とは、会社が保有しているものの、本業には直接使われていない資産のことです。

例えば、

  • 遊休地や投資用不動産
  • 使われていない土地や建物
  • 余剰な現預金
  • 投資有価証券

などが該当する場合があります。

また、売掛金についても、本当に回収できるのかを確認する必要があります。

B/Sに資産として計上されていても、回収できなければ価値はありません。

そのため、資産の中身を確認し、

「事業に必要な資産なのか」
「別途評価すべき非事業用資産なのか」

を整理していきます。

P/LとB/Sの両方を
実態に合わせて修正する

会社価格を算定するためには、P/LとB/Sの両方を実態に合わせて確認する必要があります。

P/Lでは、

正常な営業利益(正常収益力)

を把握します。

一方、B/Sでは、

  • ネットキャッシュ
  • 非事業用資産
  • 資産や負債の実態

を確認します。

さらに、これらを過去3期分程度並べて推移を確認し、足元の状況もあわせて分析します。

そうすることで、会社の収益力や財務内容の実態が見えてきます。

企業価値の算定方法は一つではない

正常収益力や財務内容を把握した後に、企業価値を算定していきます。

企業価値の算定方法には、いくつかの考え方があります。

代表的なものとして、

  • DCF法(将来の利益を現在価値に換算する方法)
  • マルチプル法(利益に倍率を掛ける方法)
  • 年買法(利益の数年分で評価する考え方)

などがあります。

実際のM&Aでは、これらを総合的に考慮しながら企業価値を判断していきます。

その結果、

「おおよそ〇億円から〇億円程度」

という会社価格の目安を算出することができます。

第三者の目線で会社を見ることが
大切

正常収益力の考え方は、決して難しいものではありません。

大切なのは、経営者自身の視点ではなく、買主の視点で会社を見ることです。

もし自分がこの会社を買う立場だったら、

  • この費用は本当に必要なのか
  • 社長個人のための支出は含まれていないか
  • 第三者が運営した場合の利益はいくらになるのか

という視点で考えてみてください。

そうすると、会社の本当の収益力が見えてきます。

例えば、決算書上の営業利益が4,000万円だったとしても、正常収益力で見ると8,000万円になることがあります。

利益が2倍になれば、会社価格も大きく変わります。

だからこそ、会社売却を検討している経営者の方には、一度ご自身の会社の正常収益力を確認することをおすすめします。

本当の収益力を把握することが、適正な会社価格を知る第一歩になるのです。

『会社価格を正しく知るためには、P/LだけでなくB/Sも実態に合わせて確認し、正常収益力とネットキャッシュを把握することが重要です。』

今回のテーマは、実態収益力、つまり正常な営業利益とは何かという話でした。
会社売却において、決算書上の営業利益をそのまま使って会社価格を算定してしまうと、本来の企業価値と大きくズレてしまう可能性があります。
社長報酬、家族役員の報酬、交際費、車両費、交通費、外注費、コンサル費用などを実態に合わせて見直すことで、会社の本当の収益力が見えてきます。

利益が出ている会社では、正常収益力に直すことで営業利益が大きく増えることがあります。
一方で、利益が少ない会社では、本来必要な人件費や費用を入れることで、正常収益力がマイナスになることもあります。

一方で、利益が少ない会社では、本来必要な人件費や費用を入れることで、正常収益力がマイナスになることもあります。
さらに、P/LだけでなくB/Sも確認し、本当のネットキャッシュや非事業用資産、資産の実態を把握することが重要です。

さらに、P/LだけでなくB/Sも確認し、本当のネットキャッシュや非事業用資産、資産の実態を把握することが重要です。

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