株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)
- M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
- ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
- 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
- M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。
会社売却を検討しているオーナー様からは、実務に入る前の段階でさまざまな不安や質問が寄せられます。たとえば、会社から個人への借入金がある場合に事前返済が必要なのか、売却後も経営に関わり続けられるのか、資料準備はどこまで必要なのか、といった悩みです。
これらは、会社とオーナーが一体となって経営されてきた中小企業では、決して珍しいものではありません。むしろ、実際のM&Aの現場ではよく出てくる論点です。
この記事では、売手オーナーが会社売却前に抱きやすい3つの心配事について、実務上どのように考え、どのように対応していくのかを整理します。会社売却を前向きに考えたいものの、細かな不安で一歩を踏み出せない方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
役員貸付金は返済すべき?
譲渡後も経営を続けられる?
売手オーナーからいただく質問に回答します
1.会社から個人への
借入金は売却前に返済が
必要なのか
会社売却を考えるオーナー様から、
よくある相談の一つです。
結論から言えば、通常、売却前に無理をして返済する必要はありません。
もちろん、会社からオーナー個人への貸付金(役員貸付金)は、銀行目線ではあまり好ましくないと判断される場合があります。状況によっては、資金使途や財務内容について確認されることもあります。
ただし、会社そのものにしっかり利益が出ており、買い手から評価される事業であれば、会社売却によって譲渡金額がつきます。
その場合、オーナー個人が受け取る譲渡代金から、会社への借入金を返済するという方法が考えられます。
譲渡代金を受け取った当日に
返済するケースもある
譲渡代金を受け取った当日に返済するケースもある
実務上では、会社売却の決済日に譲渡代金を受け取り、その資金を使って会社への借入金(役員貸付金)を返済する、という形を取ることもあります。
たとえば、譲渡金額が大きい案件で、オーナー個人が会社から借入れをしている場合でも、決済の流れの中で返済処理を行えば、売却前に無理な資金繰りをする必要はありません。
このとき重要なのは、単に「返せばよい」という話ではなく、税務上の整理、契約上の取り扱い、決済当日の資金移動など、実務的にきちんと整理して進める必要があります。
そのため、返済のタイミングや方法については、税理士・弁護士・FAなどの専門家と確認しながら進めることが重要です。
役員車・社宅・ゴルフ会員権なども整理できる
会社とオーナーが一体化している会社では、借入金以外にもさまざまな論点が出てきます。
たとえば、次のようなものです。
- 社長が使っている役員車
- 会社名義の社宅やマンション
- ゴルフ会員権
- オーナー個人に近い目的で保有している資産
これらは、会社売却時によく論点になります。
本業に必要な資産であれば、そのまま会社に残すこともあります。
一方で、実質的にオーナー個人が使っている資産であれば、
- オーナー個人が買い取る
- 売却前に処分する
- 譲渡代金の中で精算する
といった方法で整理するケースがあります。
借入金が譲渡金額を大きく超える場合は別問題
ただし、すべてのケースで問題なく処理できるわけではありません。
もし、オーナー個人の会社からの借入金が非常に大きく、譲渡金額を大きく上回るような場合は、会社売却とは別の問題として整理が必要になります。ただ、通常の会社売却においては、会社の価値の範囲内で一定額の借入れやオーナー関連資産があることは珍しくありません。大切なのは、売却前に社長個人が無理な資金調達をするのではなく、譲渡代金をどのように精算に充てるかを設計することです。


2.譲渡後も経営を
続けることはできるのか

次に多いのが、「会社を売却した後も経営を続けたいが、それは可能なのか」という相談です。
結論から言えば、ケースによりますが、買い手側に歓迎されることが多い論点です。
会社売却というと、「売ったら引退する」というイメージを持たれる方もいます。実際に、年齢や体力面を理由に、引き継ぎ後は早めに退任したいというオーナー様もおられます。
一方で最近は、比較的若い経営者が、業界再編や成長戦略の一環として、より大きな資本グループに入るために会社を譲渡するケースも増えています。
この場合は、株式や経営権は譲渡しても、本人はその後も経営に関わり続けたい、という希望を持たれることがあります。
※買い手にとっても、
現経営者が残るメリットは
大きい
たとえ買い手が大企業であっても、買収した会社をすぐに任せられる人材が社内にいるとは限りません。
むしろ、買収後に「誰がその会社を経営するのか」は、買い手側にとって非常に重要なテーマです。
そのため、現社長が一定期間残ってくれることは、買い手にとっても安心材料になります。
特に、
- 取引先との関係
- 従業員との信頼関係
- 現場のノウハウ
- 業界特有の経験や勘
などは、前オーナーが強く持っていることが多いためです。
そのため、売却後も、
- 社長
- 会長
- 取締役
- 顧問
などの立場で関与するケースもあります。
※役職や報酬は
事前に条件として交渉する
売却後も経営に関わる場合は、役職や報酬を事前にしっかり整理しておくことが重要です。
たとえば、売却前に高額な役員報酬を取っていたとしても、売却後も同じ金額を継続できるとは限りません。
買い手グループ全体の報酬水準や、他の役員とのバランスもあるためです。
実際には、
「売却前は年収4,000万円だったが、売却後は1,500万円程度に調整する」
といったケースもあります。
差額は譲渡金額に反映される考え方もある
役員報酬が下がると、その分、会社の利益は増えることになります。
そのため実務上は、
「将来的に利益が増える分を、譲渡価格に反映する」
という考え方になることがあります。
逆に、売却後も高額な役員報酬を維持したい場合は、その分、会社利益が減るため、譲渡価格が下がる可能性があります。
また、買い手グループの中で、前オーナーだけが極端に高い報酬を受け取ると、組織全体のバランスが崩れることもあります。
そのため実務では、
「売却後の報酬は買い手側の水準に合わせ、差額は譲渡代金として受け取る」
という整理の方が自然なケースも少なくありません。
※大切なのは
「最初から条件として交渉しておくこと」
重要なのは、
- 売却後にどのような立場で残るのか
- どの程度の期間関与するのか
- どのくらいの報酬を受け取るのか
を、最初から交渉条件として整理しておくことです。
事前に整理しておくことで、売り手・買い手の双方が納得しやすい形で、スムーズに会社売却を進めやすくなります。


3.会社売却の資料準備は本当に必要なのか
会社売却を進める際には、アドバイザーから多くの必要資料リストが渡されます。
たとえば、
・決算書
・月次資料
・契約書
・組織図
・借入明細
・取引先情報
・労務関係資料
など、会社によって必要になる資料はさまざまです。
オーナー様からは、
- ここまで準備しなければならないのか
- 資料を揃えるのが大変だ
という声をよくいただきます。

結論としては、必要です。
なぜなら、買い手に会社の実態を正しく理解してもらい、適切な評価をしてもらうためには、客観的な資料が欠かせないからです。
※最初に出さなくても、
最終的には必要になる
M&Aでは、まず「企業概要書」を作成し、買い手候補に会社の魅力を伝えます。
ただ、その後、買い手が本格的に検討を進める段階になると、追加資料の提出やデューデリジェンス(詳細調査)が行われます。
つまり、最初の段階では出していなかった資料でも、最終的には必要になるケースが多いということです。
デューデリジェンスでは、買い手が会社の実態を詳しく確認します。
たとえば、
- 財務
- 税務
- 法務
- 労務
- 事業内容
など、さまざまな観点から質問や資料依頼が入ります。
そのため、資料準備が遅れると、M&A全体のスケジュールも遅れやすくなります。
※秘密保持に配慮しながら、段階的に開示する
もちろん、最初からすべての情報を開示すればよい、というわけではありません。
会社売却は非常に機密性の高い話です。
- 社内に知られたくない
- 取引先に漏れたくない
- 従業員に不安を与えたくない
と考えるのは当然です。
そのため実務では、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、買い手候補の本気度や検討状況を見ながら、段階的に情報を開示していきます。
特に、
- 営業情報
- 顧客情報
- 取引条件
などは、競合に近い相手へ安易に開示すべきではない場合もあります。
そのため、アドバイザーが間に入り、
- 「どのタイミングで」
- 「どの資料を」
- 「どこまで開示するか」
を調整しながら進めることが重要になります。
※資料準備が早いほど、
会社売却は進みやすい
会社売却にかかる期間は、資料準備のスピードによって大きく変わります。
企業概要書を作るにも、まず会社の実態を確認する資料が必要です。
また、買い手候補へ説明する際も、情報が整理されている会社の方が、スムーズに話を進めやすくなります。
一方で、
- 必要資料がなかなか揃わない
- 質問への回答が遅れる
と、概要書の作成や買い手への説明、デューデリジェンス対応など、全体の進行が遅れやすくなります。
もちろん、買い手側や弁護士・会計士のスケジュールによって遅れることもあります。
しかし、売り手側の資料準備や回答スピードも、M&A全体の進行に大きく影響します。
会社売却は、アドバイザーだけで完結するものではありません。
会社の細かな実態や、長年の取引関係、現場の事情などは、オーナー様ご本人しか分からない部分も多いためです。
そのため、オーナー様ご自身が協力しながら資料整理を進めることが、スムーズな会社売却につながります。


4.アドバイザーの練度で売り手の手間は変わる

会社売却では、資料準備や買い手からの質問対応が必要になります。
ただ、その負担は、アドバイザーの進め方によって大きく変わります。
たとえば、買い手から来た質問を、そのまま売り手社長へ転送するだけでは、社長の負担は非常に大きくなります。
特に、
- 「この質問は何を聞きたいのか」
- 「どこまで答えればよいのか」
が分かりにくい場合、回答を考えるだけでも大きな手間になります。
※質問を整理し、
必要な部分だけ確認する
経験のあるアドバイザーは、買い手からの質問をそのまま投げるのではなく、まず質問の意図を整理します。
たとえば、買い手が知りたい内容のうち、すでにアドバイザー側で7割把握できているのであれば、残りの3割だけを社長へ確認します。
そのうえで、
- すでに把握している情報
- 社長から追加で確認した内容
を整理し、買い手へ分かりやすく回答します。
このように、アドバイザーが間に入って情報を整理することで、売り手社長の負担は大きく軽減されます。
※丸投げされると、社長の負担は非常に重くなる
一方で、買い手からの質問をそのまま売り手へ送るだけでは、社長は毎回ゼロから回答を考えなければなりません。
これは、想像以上に大きな負担になります。
多くの社長は、通常業務を続けながらM&A対応を進めています。
その中で、
- 質問内容を理解する
- 必要資料を探す
- 回答をまとめる
という作業を繰り返すのは、実務的にも精神的にも負担が大きくなります。
※「必要な手間」に絞って進めることが重要
もちろん、会社の実態を正しく理解してもらうためには、一定の手間は必要です。
ただし、その手間をできるだけ合理的に整理し、本当に必要な部分だけに絞って進めることも、アドバイザーの重要な役割です。
アドバイザーの経験や進め方によって、売り手社長の負担感や、M&A全体の進みやすさは大きく変わってきます。


まとめ
会社売却を検討するオーナー様には、さまざまな不安があります。
たとえば、会社から個人への借入金(役員貸付金)がある場合でも、会社売却で受け取る譲渡代金を使って精算できるケースがあります。そのため、売却前に無理をして資金調達をしなくてもよい場合があります。
また、「売却後も経営に関わりたい」という希望についても、買い手側から歓迎されることは少なくありません。
その場合は、役職や報酬、関与期間などを事前に条件として整理しておくことで、売り手・買い手双方が納得しやすい形を作ることができます。
資料準備については、確かに手間がかかります。
しかし、会社を正しく理解・評価してもらい、スムーズに会社売却を進めるためには欠かせません。
その際は、秘密保持に配慮しながら、アドバイザーと協力して必要な情報を整理していくことが重要です。
会社売却は、分からないことが多いため、不安になりやすいものです。
ただ、実務上よくある論点については、事前に整理しておくことで対応できるケースも多くあります。
会社売却を検討されている方や、「自社はいくらくらいで評価されるのか」を知りたい方は、まずは無料相談を活用し、自社に合った進め方を確認してみてください。

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