なぜM&A詐欺は起こり続けるのか?事例や手口、売主が注意すべきポイントを解説

株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)

  • M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
  • ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
  • 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
  • M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。

会社を売却する際に注意したいのが、M&A詐欺のリスクです。
最近は行政指導や自主規制も進んでいますが、過去の取引が時間差で表面化し、被害が顕在化するケースも出ています。

この記事では、なぜ今になって問題化するのか、そして売り手オーナーが絶対に押さえるべき注意点を整理して解説します。

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なぜM&A詐欺は
起こり続けるのか?

事例や手口、売主が
注意すべき
ポイントを解説

これまで様々な問題が指摘されてきたため、「もう過去の話で、すでに解決しているのでは」と感じている方もいるかもしれません。
しかし実際には、「完全に終わった」とは言い切れません。

行政の指導やM&A支援協会による自主規制が進んだことで、現在進行中の案件については、以前より改善されてきている面もあります。
一方で、過去に行われたM&Aについては、時間が経ってから問題が表面化しているケースも少なくありません。

たとえば、個人保証を外さないまま会社を引き継がせ、その後に買い手が資金を抜いてしまうようなケースです。
このような問題は、取引直後にすぐ発覚するとは限らず、一定の時間が経ってから徐々に明らかになります。

実際に、本動画(2025年11月撮影)の直前にも関連ニュースが報じられており、過去の取引が今になって問題化している状況がうかがえます。

そこで今回は、以前にも取り上げたテーマではありますが、非常に重要な内容であるため、改めて整理し、わかりやすく解説していきます。

M&A詐欺で起きていることは、結局のところ「全部同じ」です。

何が起きているのかというと、
会社の経営権や株式、さらには通帳などの銀行関連のものまで、すべて買い手に引き渡してしまう。
それにもかかわらず、売主の個人保証だけが外れていない状態が残っているのです。

そしてその後、会社が倒産し、銀行から売主に対して個人保証の支払い(弁済)を求められる。
これが典型的な最悪のパターンです。

●個人保証が外れていないとどうなるのか(ここが本当に問題です。)

もし個人保証が外れていなければ、
会社が倒産しても、

「せっかく売った会社が潰れてしまった。残念だ」という話で終わります。

しかし、個人保証が残っている場合はそうはいきません。
その負担は、すべて売主自身に降りかかってきます。

銀行からは「弁済してください」という通知が届きます。
会社に支払い能力がなければ、連帯保証人に請求が来るのが一般的だからです。

すぐに差し押さえになるとは限りませんが、
支払いができなければ、まずは個人の口座が差し押さえられる可能性があります。

さらに進むと、不動産の差し押さえ、そして競売(売却)という流れになっていきます。

会社売却2.0

会社を売却すると、株主は買い手に変わり、株式も引き渡されます。
あわせて、通帳などの銀行関連の管理も、すべて買い手に移ります。

つまり、売却後は会社の実権をすべて買い手が握る状態になります。

それにもかかわらず、個人保証だけが売主に残ったままだとどうなるか。
「責任だけが自分に残り、コントロールはすべて失う」状態になります。

この「全部渡したのに、保証だけ残る」という状況こそが、最悪の結果に直結するのです。

こうしたトラブルが
起きやすい会社の共通点

このようなトラブルが起きている会社には、ある共通点があります。
正直に言うと、経営状態があまり良くない会社が多いという点です。

もちろんすべてがそうとは限りませんが、感覚的には「ほとんどがそう」と言ってもいいでしょう。
なぜなら、状態が良い会社であれば、そもそもこのような問題のあるスキームにはなりにくいからです。

私も別の動画でお話ししていますが、世の中には「買い手がつきにくい会社」が存在します。
たとえば、債務超過で赤字が続いている場合、企業価値はほぼゼロ、あるいはマイナスと評価されます。

その結果、譲渡金額は安くなり、場合によっては0円での売却も珍しくありません。
さらに、ニュースなどでも見られるように、売主が500万円を上乗せして支払う、いわゆる**「実質マイナスの売却」**になるケースもあります。

ただし、ここで重要なのは、
「お金を払って売ること自体が問題なのではない」という点です。

企業価値がない、あるいはマイナスであれば、そのような条件になるのは自然なことです。
債務超過が大きい場合は、むしろそうなるのが現実です。

それでも、個人保証がきちんと外れ、売主がリスクから解放されるのであれば、「それで良し」と考えることも十分に合理的です。

極端に言えば、
500万円でも、1,000万円でも、2,000万円でも、
個人の連帯保証が外れるのであれば意味があるということです。

つまり、本当の問題は、お金を払って会社を手放すことではありません。

なぜ“赤字・債務超過でも”悪質な買い手が来るのか

ではなぜ、赤字で債務超過の会社にもかかわらず、買い手が対価を払うような話が成立するのでしょうか。

ポイントはシンプルです。「その会社に現金があるかどうか」です。

たとえば、負債が2億円ある一方で、現金が5,000万円ある会社を考えてみます。

通常の買い手であれば、
「2億円の負債をどう返すか」「黒字化できるのか」
といった視点で判断するため、赤字・債務超過の会社は買えない、となります。

しかし、悪質な買い手は考え方がまったく違います。
負債の大きさではなく、“今ある現金”に注目するのです。

「5,000万円を動かせるなら、それで十分だ」という発想になります。

もちろん、買収直後に5,000万円を抜いて、すぐ会社を潰せば問題になります。
そのため、あえて時間をかけます。

「経営改善に取り組んだがうまくいかなかった」という形を作りながら、
徐々に資金繰りを悪化させ、最終的に会社を倒産させるのです。

たとえば、
譲渡価格は500万円と小さい一方で、会社には5,000万円の現金がある。
まずそこから資金を動かし、仮に5,000万円のうち3,000万円を抜いてしまう。
残り2,000万円で会社を回せば、当然経営は厳しくなり、やがて行き詰まります。

そして会社が倒産すると、銀行は会社に対して債権を持っていますから、回収できなくなります。
その結果、請求は個人保証が残っている売主に向かいます。

会社売却2.0
ここが最大の問題です。

つまり、「最も避けるべき結末」とは、
個人保証が外れていないまま会社が資金繰りに行き詰まり、破綻し、その負担が売主にのしかかることです。

その過程で資金が流出していれば、もちろんリスクはさらに高まります。
ただし、たとえ資金の流出がなかったとしても、会社が破綻すれば結果は同じです。

会社売却2.0
会社売却2.0

個人保証は譲渡実行時の「同日」に外す。それ以外は基本NG

個人保証を外すのは、3日後でもダメです。1か月後でもダメです。
「1か月以内に外します」「1週間以内に外します」もダメ。同日です。

なぜなら、契約書に「1か月で外します」と書かれていても、履行できないケースが現実にあるからです。
履行できなかったら「契約違反じゃないか」と言えますし、賠償請求も理屈としては可能です。

しかし、賠償してくれるかどうかも分からないし、裁判にもなります。仮に勝ったとしても、一度渡した会社を取り上げるのは難しいのです。

だからこそ、クロージングの瞬間に、個人保証をその場で外してしまう。これを徹底するしかありません。

「その場で外せないなら渡さない」

正直、私はこういう案件自体、積極的に引き受けたいとは思いません。
ただ、仮に起きた場合にどうするかというと、相手の素性や事情が分からないなら、そもそも「やらない」のが基本スタンスです。

それでも買うと言ってくるなら、資金のエビデンスを出してもらうよう求めます。

しかし、それすら当てにならないことがあります。

そのため、買い手・売り手・銀行担当者が同席する場を設け、必要書類を揃えたうえで、その場で個人保証を外す手続きを完了させるべきです。

外せないなら、株式・経営権・通帳(銀行関連資料)は渡すべきではありません。

契約書に「1か月で外す」と書いてあっても、「信用できません」と言わざるを得ません。

言葉は選びますが、私の場合はこのようなスタンスで対応しています。

個人保証を外す方法としては、たとえば

  • 銀行で個人保証を外す(もしくは保証解除の手続きを完了させる)
  • 銀行と保証の切り替え契約など、必要な手続きを別途きちんと結ぶ

こういった手続きを先に完了させたうえで、
「手続きが完了しました。では株を渡します。実印や通帳等も渡します」
という順番にすることが大切です。

会社売却2.0

たとえば大きな案件で譲渡金額が15億円などになれば、相手も簡単に不誠実なことはできません。
しかし、譲渡金額が小さい一方で、個人保証が大きく残っている(例えば個人保証が3億円ある)ようなケースでは、「譲渡金額500万円」程度で会社を手に入れて、個人保証だけ元社長に残すという構図が成立してしまいます。

そうなると、買い手側にとっては“勝ち”になってしまう。
だからこそ、個人保証は絶対にクロージングの時点で決済し、同時に外す。
これが、M&A詐欺を防ぐためのポイントです。

M&A詐欺を防ぐうえで、もう一つ重要なのが契約書の確認です。

これは、いま話しているような悪質なケースに限った話ではありません。M&A全般に共通して、「契約書をどう扱うか」で事故の確率が大きく変わります。

「明日契約書を持って行きます。読んだので押してください」はあり得ない

世の中には、こんな進め方をするケースがあるようです。

たとえば、「明日、株式譲渡契約書を会社に持っていきます。確認してくださいね」と言われ、

当日その場で読み上げられて、「いいですね? ではこれで押してください」とそのまま署名・押印を求められる――、こうした流れです。

実際、ある大手仲介会社さんの動画でも、「譲渡契約書を作りました。今日はオーナーさんに持っていきます。ご理解いただいて押していただくのが目的です」という趣旨の発言がされていました。

が、私は正直、このような進め方は、極めて問題があると言わざるを得ません。

契約書は「送ってもらって、精査して、交渉する」もの

私がやるなら、まず契約書を送ってもらいます。
仮に、比較的いい契約書で、あまり無茶は言われていない内容だったとしても、普通は10個や20個は気になる点が残るものです。

たとえば、

  • ここはこうしてほしい
  • ここは飲めない
  • ここは緩いのでリスクがある
  • ここは揉めそうなので事前に整理したい

こういうポイントが必ず出ます。その上で、私はこう考えます。

  • 「ここは譲れないから打ち返す」
  • 「ここは現実的に譲らざるを得ない」
  • 「リスクは最大でこの程度」

と整理して、売主(オーナー)にも共有します。

さらに弁護士にも投げます。
「私はこう考えているが、どう思いますか」
「ほかに私が見落としている論点はありますか」
という観点でチェックしてもらいます。

もちろん、弁護士に頼めば数日かかることもありますし、急いで見てもらっても限界はあります。
それでも、契約書を精査して、修正案を作って押し返す。ここまでやって初めて交渉が成立していきます。

相手だって自分たちに有利な条件で書いているのが普通です。
こちらが修正を返せば、当然「じゃあ、ここを入れてくれ」「その代わり、ここは引いてくれ」という折衝になります。 たとえば競業避止義務も典型です。
「若いので新しいことをやりたい。全国でこの業種を一切やるな、は無理です。こういう文言にしてほしい」
といった交渉は、当たり前に起きます。多くの人がそれをスタンダードだと思っているはずです。

「弁護士チェック済み」は売主目線の保証ではない

ここで注意してほしいのが、「弁護士チェックが入っています」という言葉の意味です。
私は別の動画でも話しましたが、一般に言われる“弁護士チェック”は、「この契約が明らかに法令違反ではないか」という最低限の確認によっていることが多いのです。

つまり、売主に有利かどうかを見ているわけではありません。
だから、売主側の弁護士がいないのは、私は本当にあり得ないと思っています。
小さな案件であっても、私は100%弁護士をつけるべきだと考えています。

ニュースになった 「ずさんな決済・引渡し(クロージング)」の実態

ニュースに出ているような話の中には、
当日持ってこられた契約書にOKを出し、その場で譲渡を成立させてしまうような話がありました。

私はそれを聞いて、正直「どんな手順を踏んでいるんだ」と思いました。

これは、やり方を間違えています。 小さな案件であっても、譲渡するなら、契約書を専門家に見てもらい費用をかけるべきです。そして、個人保証は絶対にその場で外すのが鉄則です。

「個人保証が外れなかったら連絡」では手遅れ

今、M&A支援協会などでは、
「1か月経っても個人保証が外れなかったら本部に連絡してください」
「外さない買主はブラックリストに登録します」といった取り組みを実施しています。 ただ、私としてはそれでは遅いと思います。
通帳などを渡した瞬間から資金は動かせます。
だからこそ、譲渡を実行する日、クロージングの日に、同時に個人保証を外すことが大切です。
それができないなら、やめるべきです。

「当日解除」が必要ない買い手とは?

ここまで「個人保証はクロージング当日に外すべきだ」と強くお話ししましたが、私自身、すべての案件で同じ運用をしているわけではありません。

しっかりした買い手であれば、必ずしも「当日に外してください」と要求しないこともあります。

たとえば、相手に善意があり、実績もあり、譲渡対価として相当な金額をしっかり振り込んでもらうような案件です。
その場合、個人保証が残っていたとしても、相手が不誠実な行動を取る合理性が乏しく、現実問題として大きなトラブルになりにくいケースもあります。 ただし、ここで重要なのは、「当日に外さなくてもいい」という話ではありません。
当日解除をやろうと思ったとしても、譲渡が成立する前に銀行側の調整が必要になることがあります。つまり、当日一発で処理するには、事前に段取りが必要です。

実務では「当日解除」か「速やかに解除」かはケースで変わる

実際の案件でも、対応は分かれます。

ある案件では、当日にすべて外してもらったこともあります。
一方で別の案件では、「速やかに解除する」という条件を入れたうえで、こちらも急いでいないので、1〜2か月程度の期間で外していくという運用にしたケースもあります。

ただ、これは前提が違います。
譲渡対価として十分な金額を受け取っている案件で、相手がまともな会社であれば、個人保証が売主に残ったままだと、買い手側にとって困る案件です。
そういう相手であれば、無理に争点化しなくても問題になりにくい、という判断が成り立つわけです。

そもそも「危ない相手を選ばない」のが最優先

できる限り、買い手選びは慎重に行ってください。

ただ現実には、債務超過で赤字、企業価値がほぼないような厳しい会社の場合、良い買い手はなかなか手をあげてくれません。
その結果、どうしても「危うい買い手」が来る可能性が高くなります。

それでも相手の話を聞いていると、「しっかりやります」と言われる。
条件面も悪くないように見える。
「それなら任せてみようか」と思う瞬間はあるかもしれません。

しかし、ここで譲ってはいけません。

  • その場で個人保証を外してください
  • それができないなら、中止してください

これは普通の判断です。特別に厳しい要求ではありません。

契約書の精査も含めて、最後まで“自分の会社”として扱う

さらに、契約書にはいろいろな不利な内容が入っている可能性があります。
だからこそ、契約書をきっちり確認することを、徹底していただきたいと思います。

被害に遭われた方は本当に気の毒です。
ただ、オーナーは経営者であり、自分の会社です。
自分の財産であり、自分の人生に直結する話です。

「M&Aだから」と言って、あまり分からないまま渡すのは、あり得ません。
私はその意味で、渡してしまった側にも責任は大きいと思っています。

こうした事案は、これからも出てくると思います。
だからこそ、少なくとも新しい被害を生まないように、私もM&Aに関わる一員として努力したいと思います。

オーナーの皆さまにも、ぜひ気をつけていただきたい。
少しでも不安があるなら、いろんな人に相談してください。
それが一番大切です。

M&A詐欺の問題の多くは個人保証の扱いに行き着きます。

会社売却2.0

こうしたリスクを正しく理解したうえで、取引全体の設計ができるアドバイザーをきちんと立てることが重要です。

また、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書について、売り手側の弁護士が関与しない形はあり得ないと思ってください。
契約書の確認も含め、スキーム全体をしっかり設計したうえで進める。これが被害を防ぐポイントになります。

厳しい会社を譲渡する場合、オーナーご自身も「条件面で厳しさがある」ことは理解されていると思います。
だからこそ、相手の提案に黙って進めざるを得ない局面も出てきます。「これで抜けられるなら…」と期待したくなる気持ちも分かります。
ただ、そのときこそ冷静に考えてください。個人保証の問題は極めて重要なテーマです。 他の条件は譲れる部分があったとしても、
個人保証を外すこと、外すタイミングだけは譲らない
ここだけは気を付けて進めていただきたいです。

M&A詐欺がなくなることを願っていますし、皆さんが被害に遭わないことを心から願っています。
少しでも不安があるなら、必ず誰かに相談してください。ひとりで判断しないことが大切です。

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