M&AのPMIで売手はどこまで協力すべき?プロセスや注意点を解説 

株式会社社長の専門学校
『会社売却2.0/
М&Aセルサイドアドバイザー協会』
代表 田中英司(たなかえいじ)

  • M&Aのプロアドバイザーかつ現役経営者。
  • ゼロから創業した会社を上場させ、買手・売手の両方を社長として経験。
  • 上場企業を引き継いだ後、複数社の会社を経営。
  • M&Aアドバイザーとしても、年商数千万~数十億のM&Aを成功に導く。

M&Aでは、譲渡価格や契約条件だけでなく、買収後の経営統合、いわゆるPMIも重要な論点になります。

買手は、会社を買収した後にどのように引き継ぎ、どのように組織を運営し、どのようにシナジーを出すかを見ています。そのため、売手がPMIに協力しやすい会社であれば、買手は買収後のイメージを持ちやすくなり、企業価値の評価にも良い影響を与える可能性があります。

一方で、PMIへの協力には注意も必要です。特に、クロージング前に買手が社員や部門責任者と直接面談したいと求めてくる場合、安易に応じると社内に不安が広がり、会社が混乱するリスクがあります。

この記事では、M&AにおけるPMIの基本的な考え方、売手が協力すべきこと、そして買手からの要望に対して線引きすべきことを、売主目線で解説します。

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M&AのPMIで売手はどこまで協力すべき?

プロセスや注意点を解説 !

PMIとは、**Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)**の略で、日本語では「経営統合」と呼ばれます。

広い意味では、M&A後に両社の強みを活かしながら、どのようにシナジーを生み出し、事業価値を高めていくかという取り組み全体を指します。

一方、実務的には、経理システムの統一、人材配置の見直し、業務分担の整理など、買収後に行う具体的な統合作業のことを意味します。

つまりPMIとは、M&Aによって別々だった会社が、買収後に少しずつ一つのグループとして機能するようにしていくプロセスです。

ただし、「一つになる」といっても、すぐに会社を合併するわけではありません。実際には、買収した会社を子会社として運営するケースがほとんどです。

その理由は、人事制度や給与制度、休暇制度、給与水準などが会社ごとに異なるため、最初から完全に統合すると現場に大きな混乱が生じる可能性があるからです。

そのため買手は、まず現在の事業運営を安定させることを優先します。そのうえで、時間をかけて管理体制や人事制度、業務の進め方などを少しずつ統一していくのが一般的です。

また、事業面では、仕入先を共通化したり、同じ資材や設備を利用したりすることでコスト削減を図ることもあります。

このような買収後の統合作業や改善活動全体をPMIと呼びます。

PMIは買手だけの仕事ではない

PMIは、基本的には買手が進める仕事です。

買手は、会社を買収することでシナジーを生み出し、コストを削減し、利益を伸ばせると判断したうえでM&Aを検討します。

しかし、だからといって売手がPMIと無関係というわけではありません。

買手は会社の価値を評価する際、現在の業績だけでなく、「買収後にどれだけ成長できるか」「どれだけ統合しやすいか」も重視します。

例えば、業務の効率化がしやすいか、仕入れを一本化できるか、グループ会社とのシナジーを生み出せるかなども、株価評価に大きく影響します。

つまり、PMIが進めやすい会社ほど、買手は将来の利益を期待できるため、高い株価を提示しやすくなります。

そのため、売主も買手の立場に立ち、「買収後にスムーズに統合できる会社」であることを意識して協力することが大切です。

PMI自体を担当するのは買手ですが、売手が統合しやすい環境づくりに協力することで、会社の評価や譲渡価格が高まる可能性があります。

買手は、M&Aの検討を始めた時点から、すでにPMIを意識しています。

例えば、ノンネームシートを見た段階でも、「この会社を買収したら、どのようなシナジーが生まれるか」「どのようにグループへ統合できるか」といったことを考えています。

例えば、東日本にしか拠点がない会社が、西日本への進出を目指している場合、西日本に拠点を持つ会社は有力な買収候補になります。

物流会社であれば、「西日本の配送網を一気に手に入れられる」という理由で買収を検討することもあります。

このように買手は、会社概要書を見る前から、買収後の事業展開やPMIをイメージしながら企業を評価しています。

そして、会社概要書や詳細資料を確認する際も、「どのように統合できるか」「どのようなシナジーが期待できるか」という視点で検討を進めます。

そのため、売手は、買手がPMIを前提として株価を評価し、デューデリジェンスを行い、買収後の組織体制まで考えていることを理解しておくことが大切です。

だからこそ、売手も必要な範囲でPMIに協力する姿勢が求められます。

Q&AシートにもPMIを意識した質問が含まれる

M&Aのプロセスでは、買手からQ&Aシートが送られてきます。

このQ&Aシートには、財務や税務、法務、労務などに関する質問だけでなく、PMIを見据えた質問も数多く含まれています。

例えば、次のような質問です。

  • 社長は譲渡後、いつまで会社に残る予定ですか。
  • 会社のキーマンは誰ですか。
  • 引き継ぎはどのような体制で行いますか。

これらはすべて、買収後の運営を見据えた質問です。

買手は、誰が事業を引き継ぐのか、社長がどの程度協力してくれるのか、組織がスムーズに引き継げるのかを確認したいと考えています。

そのため、企業概要書にも、経営体制やキーマン、引き継ぎの考え方など、PMIに役立つ情報を盛り込んでおくことが重要です。

売手としては、「協力すべきこと」と「協力する必要がないこと」を整理したうえで、買手が安心してPMIを進められるよう情報を提供することが大切です。

売手がPMIでどこまで協力すべきかは、買手の立場で考えると分かりやすくなります。

M&Aでは、クロージングが完了すると株式や経営権は買手へ移ります。その瞬間から、給与の支払いや銀行取引など、会社の経営は買手が引き継ぐことになります。

しかし、クロージング当日に初めて会社の実態を知るようでは、円滑な会社運営はできません。

そのため買手は、クロージング前から必要な情報を集め、買収後の運営体制を準備しています。

会社売却2.0

買手が特に知りたいのは、社内のキーマンです。

例えば、次のような情報です。

  • 経理を中心となって担当している人は誰か。
  • その人は買収後も勤務を続ける予定か。
  • 営業の中心人物は誰か。
  • その人はどのような役割を担っているのか。

こうした情報が分かれば、買手は「まずはこの人を中心に引き継ぎを進めよう」と具体的な体制を考えることができます。

買収後の会社運営をスムーズに進めるためには、社内のキーマンを把握することが欠かせません。

会社売却2.0

もう一つ重要なのが、売主である社長がどのくらい会社に残る予定なのかです。

例えば、「3か月で退任したい」という場合と、「2~3年は引き継ぎに協力できる」という場合では、買手の引き継ぎ計画は大きく変わります。

社長が早期に退任するのであれば、短期間で後任を育成しなければなりません。一方、一定期間残ってもらえるのであれば、時間をかけてスムーズに引き継ぐことができます。

そのため、売主は「いつまで残れるのか」「どのような形で引き継ぎに協力できるのか」をできるだけ早い段階で伝えておくことが大切です。これを明確にしないと、買手は買収後の体制を判断できません。

会社売却2.0

買手は、クロージング後すぐに会社を運営しなければなりません。

そのため、買収後の体制づくりに必要な情報は、売手として積極的に提供することが重要です。これは、デューデリジェンスの段階から意識しておくべきポイントです。

売手が買手の不安を解消し、「この会社ならスムーズに引き継げる」と感じてもらえれば、買手は安心してM&Aを進めることができます。

その結果、会社の評価が高まり、譲渡価格にも良い影響を与える可能性があります。

一方で、売主には気をつけてほしいこともあります。

買主の中には、「PMIをしなければならないから、早い段階でどんどん情報を出してほしい」と強く求めてくる方がいます。

もちろん、買手の事情は理解できます。

しかし、売手としては、何でもかんでも受け入れればよいわけではありません。

特に注意すべきなのは、デューデリジェンスが始まり、ある程度進んだ段階で、買手が各部門のリーダーや役職者と直接面談したいと求めてくるケースです。

このような場合、原則としては断ってよいと考えています。

クロージング前の社員との
個別面談は慎重に

特に注意したいのが、デューデリジェンスの途中で、買手が部門長やキーマンとなる社員と直接面談したいと希望するケースです。

私は、このような要望は原則として断ってよいと考えています。

なぜなら、クロージング前は、まだM&Aが正式に成立したわけではないからです。

万が一、M&Aが成立しなかった場合、社員に買収の話だけが伝わり、社内が混乱する可能性があります。

そのため、クロージング前に買手が社員へ直接接触することは、慎重に判断すべきです。

社員の不安や混乱を
招く可能性がある

例えば、突然買手企業の担当者が現れ、「仕事内容を教えてください」「今後の業務について聞かせてください」と質問されたら、多くの社員は戸惑うでしょう。

「この人が今後の上司になるのか」
「会社は本当に売却されるのか」

このような不安を抱く社員も少なくありません。

もちろん、買手の担当者が丁寧に説明し、社員の不安を取り除ければ理想的です。

しかし、そのような対応が必ず行われるとは限りません。

売手としては、社員への影響まで保証することはできないため、安易に個別面談を認めるべきではありません。

社員との面談は
クロージング後が原則

買手が社員と直接コミュニケーションを取り、PMIを進めること自体は必要です。

ただし、それは経営権が正式に移転したクロージング後に、買手の責任で進めるべきです。

売手は、買収後の体制づくりに必要な情報を提供したり、引き継ぎについて協議したりすることには協力すべきです。

しかし、クロージング前に社員へ直接入り込むことまで協力する必要はありません。

協力することと、断ることを明確にする

PMIという言葉を聞くと、「売手もすべて協力しなければならない」と感じるかもしれません。

しかし、売手が守るべきなのは、会社と社員です。

買手の都合だけでクロージング前に社内へ深く入り込まれてしまうと、社員の不安や混乱を招き、会社運営に悪影響を及ぼす可能性があります。

そのため、売手は「協力すべきことは協力する」「協力すべきでないことは断る」という線引きを明確にすることが大切です。

社員との個別面談については、特別な事情がない限り、クロージング後に実施してもらうという考え方が、安全で現実的だと考えています。

まとめ

PMIでは、売主も買主に協力する姿勢が大切です。

買主の立場を理解し、買収後の不安を減らせるよう必要な情報を提供し、スムーズな引き継ぎに協力することで、企業価値の評価や譲渡価格にも良い影響を与える可能性があります。

一方で、クロージングが完了するまでは、売主として守るべき一線もあります。

買主に必要以上に社内へ入り込まれてしまうと、社員が不安を感じたり、社内が混乱したりする恐れがあります。

そのため、売主は「協力すべきこと」と「協力すべきでないこと」を明確に区別することが重要です。

PMIは買主にとって重要なプロセスですが、売主にとっても、会社をより高く評価してもらい、クロージングまで会社を守るための大切なポイントです。

協力すべきことには積極的に協力する。
しかし、守るべき一線はしっかり守る。

このバランスを意識してM&Aを進めることが、売主にとって成功する会社売却につながります。

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